『ハイデガー『存在と時間』入門』書評——主著に伴走する読解ガイドの決定版
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 『存在と時間』を本当に読むつもりなら、この一冊を伴走者にしてください。ハイデガー研究の専門家が、原典の議論の運びに沿って存在の問いの立ち上げから時間性までを新書で並走してくれます。「解説を読んで終わり」ではなく「原典を読むために使う」本として、現行の最有力です。
どんな本か——3行で
防衛大学校で長年ハイデガーを講じてきた研究者による、『存在と時間』一冊に絞った読解ガイドです。要約集ではなく、原典の章立てに沿って議論を追い直す構成で、新書としては異例の448頁。2017年刊で、現在も新刊・Kindleともに入手できます。
核心——「並走する」入門書
『存在と時間』の入門書には二種類あります。上空から要約する本と、地上を並走する本。前者(木田元がその最良です)は地図をくれますが、原典のページで詰まったとき、その箇所まで降りてきてはくれません。本書は後者です。存在の問いがどう立ち上がるのか——§1「存在って不思議」から§7「ことがらそれ自身へ!」まで姉妹アーカイブが節単位で読解した序論の議論運びを、本書は原典の言葉遣いに密着してさらに深く追い、そのまま本論(世界内存在の分析から時間性まで)へ連れて行ってくれます。「原典のこの段落で何が起きているか」に答えてくれる新書は、実はほとんどありません。
読みどころ3点
1. 存在の問いを茶化さず立てる序盤
「存在とは何か」という問いを、比喩に逃げずに問いとして組み立てる冒頭部は、姉妹アーカイブの§2「問い方(How)が大事」・§3「そんなこと考えて何の役にたつの?」と併読すると、原典序論の設計図が二重に確認できます。
2. 道具分析と世界内存在
ハンマーの例で知られる道具分析を、単なる有名エピソードではなく存在論の議論として復元する中盤は、本書の白眉です。「わかった気になっていた」読者ほど効きます。
3. 死・良心・時間性への一本道
後半の実存論的分析(死への存在・良心・決意性・時間性)を、前半の道具分析から切れ目なく導出してみせる構成力。『存在と時間』が一冊の建築であることが、初めて体感できます。
注意点
二点。第一に、新書とはいえ448頁の本格派です。最初の一冊には向きません——まんが版か木田元で全体の見取り図を持ってから開いてください(それがこの本棚の読む順番です)。第二に、本書は著者自身の研究に基づく読み筋(存在の問い中心の読解)を持っており、実存思想として読む竹田青嗣とは強調点が異なります。両方を知っていると、原典で立ち止まったときの補助線が二本になります。
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