『ハイデガーの思想』書評——30年読み継がれる、全体像の定番地図
★★★★★4.4 / 5.0(編集室評価)
結論: ハイデガーの「地図」はこの一冊です。要点は本書の視角にあります——『存在と時間』は挫折した未完の書であり、書かれなかった後半にこそハイデガーの本当の狙いがあった。この一点を軸に前期から後期までが一本の線でつながる構成は、刊行から30年を経ても代わりが見つかりません。
どんな本か——3行で
メルロ=ポンティやフッサールの訳業でも知られる木田元が、ハイデガーの生涯と思想全体を新書一冊で通観した本です。『存在と時間』の内容紹介にとどまらず、書かれなかった後半部の構想、ナチス加担の問題、後期の「存在の歴史」までを一つの物語として描きます。1993年刊、いまも新刊で買える現役の定番です。
核心——「未完の書」という視角
『存在と時間』は、公刊された部分だけ読むと「人間(現存在)の実存の分析」の本に見えます。しかし表題が約束していたのは存在一般の意味の解明であり、公刊部分はその準備作業にすぎません——本書はこの「本編が書かれなかった」という事実を軸に据えることで、なぜ現存在の分析から始まるのか(この事情は姉妹アーカイブの§4とコラム「現存在の謎」が扱う論点です)、なぜ後期ハイデガーはあれほど語り口を変えたのかを、一本の線で説明してみせます。入門書でありながら、読み終えると研究史の見取り図まで手に入っている——それがこの本が30年定番であり続ける理由です。
読みどころ3点
1. アリストテレスから説き起こす「存在の問い」
「存在とは何か」という問いがなぜ問いとして成立するのか。ギリシャ以来の存在論の歴史から説き起こす前半は、姉妹アーカイブが読解した序論の問題設定(§1「存在って不思議」〜§3)の、最良の背景解説になっています。
2. 『存在と時間』ダイジェストの手際
世界内存在から死への存在、時間性までの公刊部分の要約は、新書の紙幅でここまで落とせるのかという手際です。細部は轟本に譲り、幹だけを太く描きます。
3. 後期思想とナチス問題から目を逸らさない
転回後の「存在の歴史」、そしてナチス加担——都合の悪い部分を切り捨てずに全体像へ組み込む誠実さが、この本を単なる要約本と分けています。
注意点
二点。第一に、木田元の読み筋(『存在と時間』を存在一般への問いの未完のプログラムとして読む)は強力ですが、一つの解釈であることは頭の隅に置いてください。実存思想として読む竹田青嗣と読み比べると、解釈の幅ごと手に入ります。第二に、1993年刊のため近年の研究動向(全集刊行の進展など)は反映されていません。最新の見取り図が欲しくなったら轟孝夫『ハイデガーの哲学』(2023)が補完します。
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