『人間知性研究』書評——「因果」とは、心の習慣にすぎない
★★★★★5 / 5.0(編集室評価)
結論: ヒュームを一冊だけ読むなら、これです。大著『人間本性論』の認識論の核心を、ヒューム自身が読みやすく書き直した代表作。原因と結果の必然的な結びつきは、外界に見えるのではなく、繰り返しの経験から生まれる心の「習慣」にすぎない——この有名な議論が、原典のなかでは最も入りやすい形で読めます。カントを「独断のまどろみ」から覚まさせた一冊です。
- 書名
- 人間知性研究
- 著者
- デイヴィッド・ヒューム
- 訳者
- 神野慧一郎・中才敏郎
- 出版社
- 京都大学学術出版会(近代社会思想コレクション)
- 形式
- 単行本
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——代表作
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どんな本か——3行で
本書は、ヒュームが若き日の大著『人間本性論』のうち認識論の部分を、より簡潔で読みやすい形に書き直した著作です。観念の起源、因果関係の分析、蓋然性、そして有名な「奇跡」をめぐる考察などを扱います。ヒューム自身が自らの哲学の代表として位置づけた作品であり、経験論と懐疑論の核心に、最も無理なく触れられる原典です。
核心——因果=習慣という発見
本書の核心は、「原因と結果」の必然的な結びつきは、経験のうちに観察されないという発見です。ビリヤードの球がぶつかって別の球が動く——私たちはそこに「必然的な力」を見た気になりますが、実際に観察されるのは「一方の運動の後に他方の運動が続く」という規則的な連続だけです。では必然性の観念はどこから来るのか。ヒュームの答えは、繰り返しの経験が心に作る「習慣(慣れ)」だ、というものでした。因果を理性ではなく習慣に帰するこの議論は、科学的知識の基礎を揺るがす一方、人間の認識が理性より自然な信念に支えられていることを明らかにしました。この一点をつかめば、本書の議論は驚くほど明快に追えます。カントがこの本に衝撃を受けたのも納得の、思想史を動かした一冊です。
読みどころ3点
1. 因果論の核心
必然性を習慣に帰す議論が、経験論と懐疑論の要として明快に読めます。
2. 『人性論』より読みやすい
ヒューム自身が平易に書き直したもので、原典入門として最適です。
3. 奇跡論の射程
宗教的な奇跡をめぐる考察は、証言と蓋然性の議論として今も刺激的です。
注意点
二点。第一に、本書は認識論が中心で、ヒュームの道徳論は含みません(道徳は別の著作で展開されます)。全体像は入門で補ってください。第二に、読みやすいとはいえ原典です。入門や評伝で「因果=習慣」という背骨をつかんでから読むと、細部で迷いません。
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