『ヒューム』(ドゥルーズ)書評——経験論を、主体性の問いとして読む
★★★★☆4 / 5.0(編集室評価)
結論: ヒュームを哲学の視点で深めたい人へ。後に独創的な哲学者となるドゥルーズが、若き日にヒュームを論じた最初の著作です。原題は『経験論と主体性』。ドゥルーズは、ヒュームの経験論を単なる懐疑論としてではなく、「主体は与えられた所与のなかでどう構成されるのか」という積極的な問いとして読み替えます。難解ですが、古典が新しい哲学を生む現場に立ち会える、刺激的な到達点です。
どんな本か——3行で
本書は、20世紀フランスを代表する哲学者ジル・ドゥルーズが、まだ二十代の頃に著したヒューム論です(原題『経験論と主体性』)。一般的なヒューム解説とは異なり、ドゥルーズは自らの哲学的な問題意識からヒュームを読み解き、経験論を「与えられた所与(印象)のなかで、主体や信念がいかに構成されるか」という創造的な問いとして捉え直します。ヒューム研究であると同時に、若きドゥルーズの出発点でもある一冊です。
核心——所与から主体が構成される
通常、ヒュームの経験論は「確実な知識を掘り崩す懐疑論」として否定的に語られます。ドゥルーズの読解の独創は、それを逆転させ、経験論を「主体がいかに生成するか」を問う積極的な哲学として読む点にあります。ヒュームにおいて、心は最初から統一された主体としてあるのではなく、バラバラの知覚(所与)の束にすぎない。その所与に、想像力と習慣、そして情念が働きかけることで、信念や自我や社会が「構成されていく」。ドゥルーズはこの構成の運動にこそヒュームの核心を見ます。これは後のドゥルーズ自身の哲学(差異と生成の思想)の萌芽でもあり、本書を読むと、古典を読むことがいかに新しい思考を生むかがわかる。ヒュームの棚の締めくくりにして、次の哲学への扉でもある一冊です。
読みどころ3点
1. 独創的な読み替え
経験論を懐疑ではなく「主体の構成」の問いとして読む、鮮やかな転回に触れられます。
2. 若きドゥルーズの出発点
後の独創的哲学の萌芽が見え、思想史的にも興味深い一冊です。
3. 古典の生産性
古典を読むことが新しい哲学を生む現場を、実例として体験できます。
注意点
二点。第一に、本書はこの棚で最も専門的で、ヒュームとドゥルーズ双方への一定の理解が前提になります。ヒューム入門としては読まず、『人間知性研究』などを経てから挑んでください。第二に、これはあくまでドゥルーズによる一つの創造的な読解であり、標準的なヒューム解釈ではありません。「これがヒュームの定説」と受け取らず、哲学者の解釈として味わうのが正しい読み方です。
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