福永訳『荘子 内篇』書評——思想としての荘子を汲む名訳
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 同じ内篇を、もう一つの名訳で読むための一冊です。荘子研究の大家・福永光司の訳を、中国文学者・興膳宏が校訂して文庫化したもの。金谷治訳が端正で堅実なのに対し、こちらは荘子の思想的な射程を深く汲みとる読み解きに特色があります。同じ寓話を二つの訳で並べると、原典の奥行きが立体的に立ち上がります。金谷訳の次に、あるいは並べて開きたい別訳です。
- 書名
- 荘子 内篇
- 訳
- 福永 光司・興膳 宏
- 出版社
- ちくま学芸文庫
- 形式
- 原典訳(内篇の別訳)
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——訳は読みやすいが、思想的な読み解きは歯ごたえあり
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どんな本か——3行で
荘子の内篇を、道家思想研究の大家・福永光司が訳し解説した一冊です。もともと福永の荘子研究は高い評価を得てきたもので、それを中国文学者・興膳宏が校訂し、ちくま学芸文庫として読みやすく整えました。金谷治訳(岩波文庫)と並ぶ、内篇のもう一つの定番訳という位置づけです。
核心——「別訳で読む」ことの意味
古典の原典は、訳者が違えば見える景色が変わります。荘子の内篇を金谷訳で一度読んだあと本書を開くと、同じ寓話が別の光の当たり方で立ち上がるのを実感できます。福永訳は、荘子を単なる処世訓ではなく、存在や認識をめぐる本格的な思想として掘り下げる姿勢が強い。斉物論の「万物斉同」も、より哲学的な射程で読み解かれます。
是と非、善と悪といった対立は、それぞれの立場が生む相対的なもので、絶対の基準はどこにもない——ならば対立を超えた高みから、すべてを等しく照らして観よ。(「斉物論」篇・万物斉同の主題について、編集部がまとめた大意)
——荘子「斉物論」篇・万物斉同の主題(編集部による要約・大意)
二つの訳を突き合わせる読書は、一見遠回りに見えて、実は原典の理解をもっとも深めます。訳の違いに立ち止まる時間そのものが、荘子を「自分の言葉」で考える訓練になるからです。
読みどころ3点
1. 思想史のなかに荘子を置く読み
福永光司は、荘子を老子と並ぶ道家思想の柱として、思想史の流れのなかで捉えます。荘子が何に抗し、何を切り開いたのかという文脈が見えるので、寓話の一つひとつに厚みが出ます。
2. 校訂による読みやすさ
興膳宏の校訂により、専門的な内容でありながら文庫として通読しやすく整えられています。原著の学問的な密度と、現代の読者への配慮が両立しています。
3. 金谷訳との相互補完
端正でバランスの取れた金谷訳と、思想を掘り下げる福永訳。この二冊を持てば、内篇についてはほぼ死角がなくなります。読み比べ用の二冊目として理想的です。
留意点と読み方
本書は内篇の別訳であり、いきなり本書から荘子に入ることも不可能ではありませんが、思想的な読み解きが濃いぶん、初学者にはやや歯ごたえがあります。おすすめは金谷訳(または入門解説)で一度内篇を通ったうえで、本書を読み比べ用に開くこと。同じ箇所を二つの訳で読むと、どちらが「正しい」かではなく、原典が本来もっている多義性が見えてきます。外篇・雑篇まで一冊で読み通したい場合は、池田知久の全訳注が全篇をカバーします。
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