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ショーペンハウアーの本棚

絶望の哲学者を、挫折せずに読む。

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『幸福について』書評——「幸福になれる」という迷妄を斬る、本人の声の幸福論

2026-07-03|ショーペンハウアーの本棚 編集室

★★★★★4.6 / 5.0(編集室評価)

結論: 原典への最短入口にして、5冊の中でいちばん「使える」本。他人の目や評判に疲れている人が読むと、100年以上前の毒舌に救われるという不思議な体験ができます。新訳で文章の壁もほぼありません。

幸福について(装丁風イメージ・当サイト作成)
書名
幸福について
著者
ショーペンハウアー(鈴木芳子 訳)
出版社
光文社古典新訳文庫(2018年)
分量
紙換算314頁
難易度
入門 ★☆☆ ——原典だが予備知識不要

Kindle無料サンプルあり/価格はAmazonでご確認ください

どんな本か——3行で

晩年の論文集『余録と補遺』に収められた「処世術箴言」の新訳です。人間の幸不幸を決める要素を「その人があるところのもの/持っているもの/人に印象づけるもの」の三つに分け、世間の評判に振り回されることの愚かさを、皮肉たっぷりの実例とともに論じていきます。体系書ではなく、独立した章を拾い読みできるエッセイです。

「絶望の哲学者」がなぜ幸福論を書いたのか

「人生は苦である」と説いた哲学者が幸福論を書く——この矛盾は本人も自覚していて、序論で「この論述は最高の立場から見れば妥協の産物だ」という趣旨の断り書きをしています。つまりこれは「幸福になる方法」ではなく「不幸を減らす方法」の本です。

この設定が、かえって本書を信用できるものにしています。「あなたは必ず幸福になれる」と言う本より、「幸福の総量は増えない。だが愚行によって不幸を増やすことはやめられる」と言う本のほうが、実際に効くのです。姉妹サイトの幸福論序文の読解でこの「妥協の産物」問題を詳しく扱っています。

読みどころ3点

1. 幸福の三分類——勝負は「何を持つか」ではなく「何であるか」

財産や評判は運に左右されるが、健康・明朗さ・精神の豊かさという「その人があるところのもの」は奪われない。だから投資先はそこだ、という議論が全編の背骨です。SNSで他人の生活を眺めて消耗する現代の構図を、19世紀にここまで正確に言い当てた文章はありません。

2. 名誉・地位・虚栄の解剖

本書の白眉は、他人の頭の中にある自分の像(=評判)のために現実の人生を犠牲にする倒錯を、執拗に解剖していく章です。読み進めるうちに、自分の見栄の一つ二つは確実に手放したくなります。

3. アフォリズムとしての切れ味

ショーペンハウアーは大哲学者であると同時に、ドイツ語散文の名手として知られます。一文で急所を突く寸言の快感は、要約では絶対に伝わりません——ここが解説書ではなく原典を読む理由です。

訳について

光文社古典新訳文庫の鈴木芳子訳は、文庫で流通している訳の中でもっとも現代的で読みやすい部類です。旧訳(新潮文庫版など)で挫折した人も、新訳なら通ります。編集室では姉妹サイトでの読解時に複数訳を突き合わせましたが、初読の一冊としてはこの新訳をすすめます。

編集室の実読メモ 読了目安は約6時間ですが、章が独立しているので1日1章でも成立します。挫折ポイントはほぼ皆無。強いて言えば序論の理屈っぽさで止まる人がいるので、序論を飛ばして第2章から読み、最後に序論へ戻るのが編集室推奨の読み方です。

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