『墨子よみがえる』書評——昭和史の書き手が読む“非戦”の思想
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 墨子を「いまの問題」として読むならこれです。『日本のいちばん長い日』などで知られる昭和史の書き手・半藤一利が、戦争と平和という自らの主題から墨子の「非攻」を読み直した現代の読み物。訳注ではないので古典に不慣れでも読み進められ、二千数百年前の反戦思想がなぜ「よみがえる」のかが腑に落ちます。入門書で骨格をつかんだ次に読むと、思想が体温を持って迫ってきます。
- 書名
- 墨子よみがえる “非戦”への奮闘努力のために
- 著者
- 半藤一利
- 出版社
- 平凡社(平凡社ライブラリー)
- 形式
- 文庫(ライブラリー判)
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——訳注ではない現代の読み物
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どんな本か——3行で
本書は、近現代史のノンフィクションを数多く手がけた半藤一利が、古代中国の思想家・墨子を「非戦(非攻)」という一点から読み解いたエッセイ的な読み物です。学術的な訳注書ではなく、著者自身が戦争の時代をどう見てきたかという視点を通して、墨子の思想を現代に引き寄せます。原文を逐語的に追うのではなく、「なぜいま墨子なのか」という問いを軸に、その平和論の現代的な意味を語る一冊です。
核心——非攻を現代から読む
墨子の「非攻」は、単なる平和の願望ではありません。侵略戦争がいかに割に合わず、双方を疲弊させるかを説き、さらに墨家集団は攻められる弱小国の防衛を実際に手伝った——非戦を思想であると同時に実践としたところに、その凄みがあります。半藤はこの「奮闘努力」の姿勢に注目します。昭和の戦争を長く見つめてきた書き手だからこそ、「戦争をしない」という当たり前がいかに難しく、いかに具体的な努力を要するかを知っている。だからこそ、机上の空論ではなく汗をかいて戦争を止めにいった墨子の像が、本書では生き生きとよみがえります。原典の解説書では得にくい「思想を生きる」手触りを、現代日本の経験と重ねて受けとれるのが、この本ならではの読み味です。
読みどころ3点
1. 古典に不慣れでも読める
書き下しや訳注を追う本ではなく、語り口のなめらかなノンフィクションの文体で進みます。「古典は難しそう」という人でも、物語を読むように墨子に近づけます。
2. 「非攻」が現代の問題になる
戦争と平和という主題を長く扱ってきた著者の視点を通すことで、墨子の反戦思想が過去の遺物ではなく、いまを考える道具として立ち上がります。ニュースの読み方が少し変わります。
3. 実践としての思想が見える
墨家が防御の技術者集団でもあったこと——思想が「守る」という具体的な行動と結びついていたことが強調され、兼愛・非攻が抽象論でないと実感できます。
注意点
二点。第一に、本書は著者の視点による現代的な読み物であり、『墨子』原典の逐語訳ではありません。墨子の言葉そのものを腰を据えて読みたくなったら、原典訳注(浅野訳・森訳・金谷訳のいずれか)へ進んでください。第二に、非攻に焦点を当てるため、兼愛・尚賢・天志といった他の主張は相対的に控えめです。思想の全体像は入門書で先に押さえておくと、本書の主題がよりくっきりします。
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