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『ビギナーズ・クラシックス 墨子』書評——兼愛・非攻を、はじめの一歩で
★★★★★5.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 墨子を一冊目に読むなら、これです。名場面を精選し、原文の書き下し・現代語訳・やさしい解説をセットで読ませる入門書。兼愛(分けへだてなく愛せ)・非攻(攻めの戦争をやめよ)・節用(無駄を省け)という核心の主張と、宋を救った非戦のエピソードを、無理のない分量で一望できます。ここで骨格をつかんでおくと、あとで原典訳注に進んでも迷子になりません。
- 書名
- 墨子 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典
- 著者
- 草野友子
- 出版社
- KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
- 形式
- 文庫
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——抜粋+解説で読みやすい
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どんな本か——3行で
本書は、角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」シリーズの一冊で、『墨子』の代表的な章句を精選し、原文の書き下し・現代語訳・解説をワンセットにして読ませる入門書です。全五十余篇におよぶ原典をいきなり通読するのではなく、まず「墨子とは何を主張した人か」を、抜粋という浅瀬から体験できるように編まれています。古典に不慣れな読者を想定した平易な解説で、儒家(孔子の系譜)との対立という思想史的な位置づけも押さえられます。
核心——兼愛から非攻へ
墨子の思想は、一つの主張から芋づる式につながっています。出発点は兼愛——身内や自国だけを特別扱いする「別愛」をやめ、分けへだてなくすべての人を愛せという教えです。ここから、他国を攻める侵略戦争を否定する非攻が導かれ、戦争や贅沢がもたらす無駄を省く節用(節約)・節葬(簡素な葬儀)・非楽(過度な音楽の否定)へと広がります。本書はこの十論(墨家の十の主要主張)の骨格を、抜粋を通してたどれるように構成されています。とりわけ、墨子が楚の王を説得して弱小国・宋への攻撃を思いとどまらせる有名な逸話は、「非攻」が机上の理想ではなく、実際に戦争を止めようとする実践だったことを鮮やかに伝えます。「愛」と「反戦」と「倹約」が一本の論理でつながる——その見取り図を最初に得られるのが、本書の最大の値打ちです。
読みどころ3点
1. 原文・訳・解説が一望できる
書き下し文で古典の調子に触れつつ、すぐ横で現代語訳と解説が受けとめてくれます。原典に一人で潜るときの「意味が取れない」不安がなく、古文が苦手でも前に進めます。
2. 十論の「つながり」が見える
兼愛・非攻・節用などがバラバラの主張ではなく、一つの原理から派生していることが解説で明快に示されます。この見取り図があると、後で原典を読むとき各篇が地図上に置けます。
3. 儒家との対立が腑に落ちる
墨子がなぜ盛大な葬儀や音楽を批判したのか——それが儒家の「礼楽」への対抗だったと分かると、諸子百家の見取り図全体がくっきりします。中国思想史への入口としても優秀です。
注意点
二点。第一に、本書は抜粋の入門書であり、『墨子』全篇を訳したものではありません。ここで興味を持った主題は、原典訳注(浅野訳・森訳・金谷訳のいずれか一冊)で受けとめてください。第二に、墨家には論理学や光学・力学を扱う「墨経」という技術的な部分もありますが、入門書では深入りしません。まずは兼愛・非攻という思想の幹をつかむ本、と割り切って読むのがおすすめです。
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