『青色本』書評——後期へ向かう、生きた思考の記録
★★★★☆4.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 前期と後期のあいだをつなぐ、貴重な過渡期の講義録です。もともとはケンブリッジの学生に口述筆記させたノートで、青い表紙にちなんで『青色本』と呼ばれます。後の「言語ゲーム」「家族的類似」につながる発想が、『哲学探究』のように彫琢される前の、生きた話し言葉のまま語られているのが魅力。主著の断章に手こずった人が、思考の流れを掴み直す橋渡しとして特に効きます。位置づけは主著の副読本ですが、その役割は十分に大きい一冊です。
- 書名
- 青色本
- 著者
- ウィトゲンシュタイン
- 出版社
- ちくま学芸文庫
- 種別
- 講義録(過渡期の口述ノート)
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——主著より平易だが、位置づけの理解が要る
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どんな本か——3行で
『青色本』は、ウィトゲンシュタインが1930年代にケンブリッジで学生たちに口述し、筆記させた講義ノートです。生前に刊行された著作ではなく、後に編集・公刊されたもので、青い表紙で綴じられていたことからこの通称で呼ばれます。前期『論理哲学論考』を書き終えた彼が、その立場を問い直しながら後期の思想へ向かっていく——ちょうどその過渡期の思考が記録されている点に、本書の独自の価値があります。日本語では、ちくま学芸文庫で読むことができます。
核心——彫琢される前の「後期」
本書の核心は、後の『哲学探究』で結晶する発想が、まだ整えられる前の柔らかい形で見えることです。たとえば、語の意味を「対象」ではなく「使われ方」に求める発想や、後に「家族的類似」と呼ばれる考え——一群のものに共通する単一の本質を探すのをやめ、重なり合う類似の網として捉える見方——が、講義の語り口の中に顔を出します。『探究』が完成された断章の連なりだとすれば、『青色本』は同じ思想が生まれ出る現場のスケッチです。
編集部の理解では、本書の効きどころは「なぜ後期の見方に至ったのか」の手触りが得られることにあります。主著では省かれた前置きや言い換えが、講義ゆえに残っている。だからこそ、『探究』で足を取られた人が「そういう狙いだったのか」と腑に落ちる場面が多いのです。
読みどころ3点
1. 話し言葉のわかりやすさ
学生に向けた口述なので、主著より噛みくだかれ、例も豊富です。原典の張りつめた密度が苦手な人にとって、後期の発想に触れる入りやすい窓口になります。
2. 「家族的類似」の芽
後に有名になる家族的類似の考えが、まだその名で固まる前の形で語られます。主著で結論だけ読むより、生成の過程を見るほうが理解が深まる、という好例です。
3. 前期と後期をつなぐ位置
『論考』の張りつめた体系と、『探究』の柔らかい断章。その間に本書を置くと、転回が一つの連続した運動として見えてきます。
留意点と読み方
留意点は二つあります。第一に、本書は本人が完成させて世に問うた著作ではなく、講義ノートだということ。体系的な結論を求めるのではなく、思考の流れを追う気持ちで読むのが正解です。第二に、単独で読むと位置づけを見失いやすいこと。前期『論考』と後期『探究』の間にある本だと分かっていて初めて、その価値が生きます。したがって読む順番としては、主著(少なくとも入門書と前期)を通ったあとの副読本として開くのがおすすめです。『探究』で詰まったときに本書へ寄り道し、また戻る——この往復が、後期の理解を大きく押し上げます。
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