津田明雅『ナーガールジュナの讃歌』書評——龍樹研究の最前線へ
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価・上級者向け)
結論: 龍樹研究の最前線に触れたい上級者・研究志望者へ。龍樹に帰される〈讃歌(仏を讃える詩)〉を原典から訳出・研究し、あわせて「どの著作が本当に龍樹のものか」という真偽性の問題に踏み込んだ本格的な研究書です。一般向けの入門書ではありません——原典と学術的議論を正面から扱う一冊であることを、最初に正直にお断りします。STEP 1〜3を経てから挑む、この棚のゴールにあたる本です。
- 書名
- ナーガールジュナの讃歌——諸著作の真偽性とあわせて
- 著者
- 津田明雅
- 出版社
- 編集工房スワロウデイル
- 形式
- 単行本(専門研究書)
- 難易度
- 上級 ★★★ ——原典・学術議論を扱う研究書
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どんな本か——3行で
本書は、研究者・津田明雅による、龍樹に帰される〈讃歌(stotra、仏や真理を讃える韻文)〉の本格的な研究書です。『中論』のような論理の書だけでなく、龍樹の名で伝えられてきた讃歌群を、サンスクリット・チベット語などの原典から訳出・分析し、あわせて「これらの著作は本当に龍樹のものか」という真偽性(帰属)の問題を検討します。龍樹研究のなかでも専門性の高い領域に、原典に即して踏み込んだ一冊です。
核心——讃歌と真偽性
「龍樹」の名で今日に伝わる著作は数多くありますが、そのすべてが歴史上の龍樹本人の手になるとは限りません。後世に彼の名を冠して書かれたものも含まれると考えられており、どれを龍樹本人の思想として扱えるかは、龍樹研究の重要な前提問題です。本書は、論理書『中論』とはトーンの異なる〈讃歌〉に光を当て、その原典を丁寧に読みながら、思想的・文献学的な手がかりから帰属の問題を論じます。緻密な論理で〈空〉を説いた龍樹と、仏を讃える詩を残したとされる龍樹——その二つの像がどうつながる(あるいはつながらない)のかを、原典研究の水準で考えさせてくれるのが本書の核心です。入門書が描く「龍樹像」の背後で、専門家がどれほど繊細に史料と向き合っているかが伝わってきます。
読みどころ3点
1. 讃歌という別の顔に出会える
論理の人という龍樹像に、仏を讃える詩人という別の顔が重なります。〈空〉の論理だけでは見えない龍樹の広がりに触れられます。
2. 原典研究の手つきが学べる
原典をどう読み、帰属をどう論じるか——文献学的な議論の進め方そのものが、龍樹研究の実際を知る貴重な手がかりになります。
3. 「龍樹の著作」を疑う視点が得られる
入門書では「龍樹の著作」と一括りにされがちなものを、一点ずつ吟味する視点が身につきます。以後、龍樹関連の記述を鵜呑みにせず読めるようになります。
注意点(重要)
はっきり書きます。本書は一般向けの入門書ではなく、原典と学術的議論を前提とした専門研究書です。龍樹の思想を初めて学ぶ人が最初に手に取る本ではありません。まず中村元『龍樹』で全体像を、『縁起の思想』で理論の背骨を固めてから読むと、本書の議論の位置づけがはっきりします。原典の術語や文献学的な議論に抵抗がある段階では、無理に急がず、この棚のSTEP 1〜3を先に踏むことを強くおすすめします。逆に、そこを越えた読者にとっては、龍樹研究の奥行きを体感できる得がたい一冊です。
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