『資本論 (一)』(岩波文庫・向坂訳)書評——定訳で、原典そのものを読む
★★★★★5.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 入門書で地図を得たなら、いよいよ原典です。本書は『資本論』そのもの——長く読み継がれてきた向坂逸郎(さきさか いつろう)の定訳による岩波文庫版(白125-1)の第一分冊で、第1巻・第1篇「商品と貨幣」から始まります。難所は冒頭の価値形態論ですが、入門書で全体像を持っていれば「いま何を論じているか」を見失わずに登れます。もう一つの原典新版(新日本出版社)とは、同じ『資本論』の別の翻訳・版です。
- 書名
- 資本論 (一)(岩波文庫 白125-1)
- 著者
- K.マルクス/F.エンゲルス
- 訳者
- 向坂逸郎
- 出版社
- 岩波書店(岩波文庫)
- 形式
- 文庫
- 難易度
- 上級 ★★★ ——原典。冒頭の価値形態論が難所
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どんな本か——3行で
本書は、マルクスが資本主義の運動法則を解剖した主著『資本論』第1巻の、岩波文庫版第一分冊です。エンゲルスの編集を経たテキストを底本とし、向坂逸郎が訳しました。分析は「商品」という最も身近な要素から出発し、価値・貨幣・資本へと段階を上がっていきます。一見遠回りに見えるこの順序こそ、資本主義という巨大な仕組みを根っこから解き明かすためのマルクスの方法です。文庫で複数分冊に分かれており、第一分冊はその入口にあたります。
核心——商品から資本へ
『資本論』が難しいと言われる最大の理由は、冒頭で「商品」の価値をめぐる抽象的な分析(価値形態論)が延々と続くことです。なぜこんな話から始めるのか。マルクスは、資本主義社会では富が「商品の巨大な集まり」として現れる、という観察から出発します。そこで、商品がもつ二つの顔——使い道としての有用性(使用価値)と、他の商品と交換される力(価値)——を腑分けし、価値の実体が「人間の労働」にあることを突き止めていきます。この土台の上に、貨幣がなぜ生まれるのか、そして貨幣がどのようにして「増えつづける価値=資本」へと転化するのかが積み上げられます。冒頭の抽象を我慢して登りきると、資本主義の運動が一枚の論理でつながって見えてくる——それが原典を読む醍醐味です。入門書はこの見通しを先に与えてくれますが、論理の一歩一歩をマルクス自身の筆でたどれるのは原典だけです。
読みどころ3点
1. マルクスの文体そのものに触れられる
皮肉やユーモア、劇的な比喩を交えたマルクスの筆致は、解説書では味わえません。原典を読む価値の大きな部分は、この「語り口」に直接触れることにあります。
2. 向坂訳という定訳の安定感
向坂逸郎訳は長く読み継がれ、多くの読者・研究者が参照してきた定訳です。訳語や言い回しに歴史の蓄積があり、他の文献との照合がしやすいという実務的な利点もあります。
3. 論理の積み上げを一次資料で追える
商品→価値→貨幣→資本という論理の運びを、要約ではなく本文で追えます。入門書で得た地図と原典の実地が重なったとき、理解が一段深くなります。
注意点(版の選び方)
二点。第一に、正直に言えば冒頭の価値形態論は難所です。ここで完璧な理解を目指して立ち止まるより、まず通読して全体の論理をつかみ、あとで戻るほうが挫折しません。入門書(NHK版・池上版)で地図を持ってから読むことを強くおすすめします。第二に、原典にはもう一つの選択肢新版(新日本出版社)があります。両者は同一著作『資本論』の異なる翻訳・版で、本書は長く親しまれた定訳、新版は最新の校訂(MEGA)と詳しい訳注が特徴です。訳文の呼吸が自分に合うほうを、書店で見比べて選んでください。
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