『完訳 統治二論』書評——自由と所有は、政府より先にある
★★★★★5 / 5.0(編集室評価)
結論: ロックを一冊だけ読むなら、これです。人は生まれながらに自由と所有の権利(自然権)を持ち、それを守るために契約で政府をつくる——政府がその信託に背けば、人民には抵抗権がある。近代自由主義と立憲主義の礎を据えた代表作で、アメリカ独立宣言にも直接影響しました。加藤節の完訳で、少し手強いですが、入門で地図を得てから読めば筋は明快です。
どんな本か——3行で
本書は、王権神授説を批判する前篇と、政治社会の起源と正当性を論じる後篇からなるロックの主著です。とりわけ有名なのは後篇で、人間が政府をもたない「自然状態」から出発し、自然権(生命・自由・財産)を守るために人々が合意して政治社会を樹立する過程を論じます。政府の権力は人民の信託にもとづくものであり、それに背けば抵抗できる、とされます。
核心——所有と抵抗権
『統治二論』の核心は二つあります。一つは所有権の基礎づけ。ロックは、各人が自分の身体を所有し、その身体の労働を加えたものは自分のものになる、という「労働所有論」を展開します。これは私有財産を自然権として正当化する、後世に絶大な影響を与えた議論です。もう一つは抵抗権。政府はあくまで自然権を守るための信託を受けた存在にすぎず、その目的に反して人民の権利を侵すなら、人民は政府を取り替える権利を持つ——この主張が、名誉革命を正当化し、やがてアメリカ独立の思想的支柱になりました。抽象的な社会契約論に見えて、じつは「権力を縛るのは何か」というきわめて実践的な問いに答えています。ここを軸に読むと、細部で迷いません。
読みどころ3点
1. 労働所有論
身体と労働から私有財産を基礎づける議論は、近代の所有観の原点として重要です。
2. 抵抗権と信託
政府を人民の信託と捉え、その濫用に抵抗権を認める発想が立憲主義の礎になりました。
3. 加藤節の完訳
前篇を含む完訳で、訳注も手厚く、独力での読解を支えてくれます。
注意点
二点。第一に、前篇(フィルマー批判)はやや冗長なので、まず後篇から読むのが実践的です。多くの読者にとって核心は後篇にあります。第二に、本書は少し手強いので、いきなり読むより入門で地図を得てから挑むと、自然権・所有・抵抗権という背骨を見失いません。
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