『野生の思考』書評——「未開」の知性を復権させる、構造主義の主著
★★★★★4.7 / 5.0(編集室評価)
結論: レヴィ=ストロースを代表する主著であり、本棚の中心。「未開」の人々の思考を、科学に至らない呪術的段階としてではなく、ありあわせの素材で世界を秩序づけるブリコラージュの論理として捉え直し、それが人類に共通する知性の一つの姿であることを示します。難解であることは隠しません。しかし入門書・講演・紀行で足場を固めたうえで挑めば、一章ごとに確かな手応えのある、生涯読み返せる一冊です。星は「読みやすさ」ではなく「思想的達成」への評価です。
- 書名
- 野生の思考
- 著者
- クロード・レヴィ=ストロース/大橋保夫 訳
- 出版社
- みすず書房
- 種別
- 主著(構造主義の代表作)
- 難易度
- 上級 ★★★ ——足場なしに挑むと挫折しやすい。準備の上で
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どんな本か——3行で
『野生の思考』は、1962年に公刊されたレヴィ=ストロースの主著で、構造主義人類学の到達点を示す一冊です。「未開」と呼ばれてきた人々の分類法・命名法・神話的思考を膨大な民族誌から集め、それらが決して非合理な迷信ではなく、緻密で体系的な論理を備えていることを論証します。本書によってレヴィ=ストロースは、西洋近代が信じてきた「未開=劣った思考/文明=進んだ思考」という進歩の図式を根底から覆しました。20世紀後半の人文学に決定的な影響を与えた、現代思想の古典中の古典です。
主張の要点——ブリコラージュと「具体の科学」
本書の中心には、「野生の思考」は「具体の科学」であるという主張があります。近代科学が抽象的な概念を操作して世界に迫るのに対し、「野生の思考」は、身近な動植物や自然物を記号として用い、それらを分類し組み合わせることで世界に秩序を与えます。レヴィ=ストロースはこの営みをブリコラージュ(器用仕事)と呼びました。あらかじめ設計された専用の道具ではなく、手元にあるありあわせの素材を、その都度うまく転用して必要なものを作り上げる——「野生の思考」は、まさにそのように世界を築き上げるのです。
重要なのは、レヴィ=ストロースがこれを近代科学に劣るものとは見なさない点です。両者は目的も方法も違うが、どちらも同じように厳密で有効な、人間の知性の二つの様式である。だからこそ本書のタイトルは「野生の(la pensée sauvage)」思考なのであって、それは「未開人の思考」ではなく、私たち自身のうちにも生きている、飼いならされる前の生の知性を指します。本書後半では、この視点からトーテミズムや神話的分類が鮮やかに読み解かれ、終章では哲学者サルトルの歴史観への批判にまで及びます。
「野生の思考」は、科学以前の未熟な段階ではない。ありあわせの記号で世界を精緻に秩序づける、もう一つの完成された論理である。(本書の中心的主張を、編集部が要約したもの)
——『野生の思考』の骨格(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 「ブリコラージュ」という一語の射程
難解な細部を貫く背骨は、実はこの一語です。「ありあわせで世界を組み立てる」というイメージさえ掴めば、膨大な民族誌の議論のどこを読んでいても、著者が何をしようとしているかを見失いません。
2. 「未開/文明」の優劣を崩す論証の力
具体的な分類体系の分析を積み重ねて、進歩史観をひっくり返していく手つきは圧巻です。抽象論ではなく、事例そのものが読者の思い込みを一つずつ解体していきます。
3. 思想史を動かした終章
歴史に特権的な意味を与えるサルトル的な立場への批判は、構造主義と実存主義の対決として、20世紀思想史の分岐点になりました。本書がなぜ「事件」だったのかが、ここで体感できます。
挫折ポイントと読み方
挫折の原因はほぼ一つ、足場なしで、膨大な民族誌の固有名詞を一つずつ理解しようと通読することです。本書には見慣れない部族名・動植物名・分類の実例が濃密に詰め込まれており、それを全部覚えようとすると、必ずどこかで失速します。おすすめは、まず「ブリコラージュ=ありあわせで世界を秩序づける」という背骨だけを頼りに、細かい実例は「そういう例か」と流しながら先へ進む一読目。細部は二読目以降に回します。そして——ここが大事ですが——いきなり本書から入らないこと。当サイトが入門書(小田亮)・講演(神話と意味)・紀行(悲しき熱帯)を先に置くのは、鍵語の地図と、著者の眼差しへの親しみさえあれば、この主著が急に一本の背骨を持って立ち上がるからです。
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