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レヴィ=ストロースの本棚

「野生の思考」は、劣ってなどいない。

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『仮面の道』書評——仮面が神話を語りだす、後期の到達点

2026-07-12|レヴィ=ストロースの本棚 編集室

★★★★☆4.3 / 5.0(編集室評価)

結論: 本棚の最終章。北米・北西海岸の先住民が用いる仮面を出発点に、その造形の違いが神話とどう連動し、たがいに変換し合うかを追う、後期レヴィ=ストロースの神話論です。本棚で最も専門的な一冊であり、正直に言えば、他の4冊で構造分析の作法に慣れていない人には勧めません。しかしここまで登ってきた読者にとっては、一つの仮面の形の背後に、神話と造形の壮大な変換の体系が広がっていく——その分析の醍醐味を、もっとも凝縮した形で味わえる到達点です。

仮面の道(装丁風イメージ・当サイト作成)
書名
仮面の道
著者
クロード・レヴィ=ストロース/山口昌男・渡辺守章 訳
出版社
ちくま学芸文庫
種別
神話論(後期の代表作)
難易度
最上級 ★★★ ——本棚で最も専門的。他の4冊を経てから

文庫/価格・在庫はAmazonの商品ページでご確認ください

どんな本か——3行で

『仮面の道』は、1975年に公刊されたレヴィ=ストロース後期の著作で、北米大陸北西海岸の先住民の仮面——サリッシュのスワイフウェ、クワキウトルのゾノクワなど——を主題にした神話論です。四巻からなる大著『神話論理』で確立した分析を、仮面という具体的な造形物に凝縮して展開したもの。ある地域の仮面がなぜその形・その色をとるのかを、隣接する集団の仮面や神話と突き合わせながら解き明かしていきます。造形芸術・神話・社会組織を一つの体系のなかで結び合わせる、後期構造主義の実践編ともいえる一冊です。

主張の要点——「変換」として神話を読む

本書の中心にあるのは、「変換(transformation)」という考え方です。レヴィ=ストロースによれば、一つの仮面や神話を単独で「解釈」しても意味は取り出せません。意味は、隣り合う集団のあいだで、ある要素が別の要素へと体系的に置き換わっていく関係のなかに宿ります。たとえばある部族で「上を向く」造形が、隣の部族では「下を向く」造形へと反転し、それに応じて仮面にまつわる神話の役割も裏返る——そうした対応の網の目そのものが、分析の対象なのです。

ここで働いているのは、初期から一貫する二項対立と構造の思考です。仮面の形態的特徴(開いた口/閉じた口、突き出た目/窪んだ目)が二項対立のセットをなし、それが神話の主題や社会関係と規則的に対応する。レヴィ=ストロースは、目に見える造形の差異の背後に、見えない関係の秩序を読み取ります。『野生の思考』が示した「具体を通して世界を秩序づける論理」が、ここでは仮面という最も具体的な事物に即して、精密に実演されているのです。

一つの仮面の意味は、それ単独ではなく、隣り合う仮面や神話への体系的な変換の関係のなかにある。(本書の中心的方法を、編集部が要約したもの)

——『仮面の道』の骨格(編集部による大意)

読みどころ3点

1. 構造分析の「実演」を見られる

理論の説明ではなく、具体的な仮面を相手に構造分析が実際に動く様子を、間近で観察できます。他の4冊で学んだ方法が、ここで一つの完成形として展開されます。

2. 造形と神話が結ばれる鮮やかさ

目に見える仮面の形と、目に見えない神話の論理が、変換という一本の糸で結ばれていく瞬間の鮮やかさ。ここには、レヴィ=ストロース分析の美しさが凝縮されています。

3. 図版とともに追える具体性

抽象論に傾きがちな構造主義のなかで、本書は仮面という手で触れられる対象を扱うため、議論が具体的で追いやすい面があります。到達点でありながら、意外な取り付きやすさもあります。

挫折ポイントと読み方

率直に言います。本書は単独で読むと、ほぼ確実に挫折します。北西海岸の諸集団の名前、神話の細部、造形の術語が前提知識なしに飛び交い、しかも分析は『神話論理』の方法を下敷きにしているため、構造分析の作法に不慣れなまま開くと、一段落ごとに足場を失います。だから読む順を厳守してください——入門書で地図を、講演で神話観を、紀行で眼差しを、そして『野生の思考』でブリコラージュと具体の科学を通ってから、はじめて本書へ。読み方は主著と同じく、「変換の関係を追う」という背骨だけを頼りに、個々の部族名・神話の細部は印をつけて先へ進むのが基本です。すべてを一度で追い切ろうとせず、「造形の差異が神話の差異と対応している」という一点を体感できれば、一読目は十分に成功です。

編集室メモ 本評は本書(山口昌男・渡辺守章訳・ちくま学芸文庫)の主要部の実読と、レヴィ=ストロースの神話研究・関連文献の書誌調査にもとづく評価です。読了目安は約14時間(前提知識を要し、反復を強く前提とする一冊です)。星4.3は分析の達成の高さと、単独では読み通しにくい難度・前提依存性を差し引いた総合評価で、難易度は率直に最上級(★★★)と示しています。本ページの「変換」「二項対立」等の説明と引用ブロックは、いずれも編集部による要約・大意であり、山口・渡辺訳の訳文の転載ではありません。正確な言い回しは本書でご確認ください。著者・訳者・出版社(クロード・レヴィ=ストロース/山口昌男・渡辺守章 訳/ちくま学芸文庫)は書誌情報にもとづき記載しています。

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