『キェルケゴール 生の苦悩に向き合う哲学』書評——最初の一冊にできる、本格入門
★★★★★5.0 / 5.0(編集室評価)
結論: キェルケゴールに一冊目で入るなら、まずこれです。研究者による本格的な入門でありながら、最初の一冊にできる稀有な新書。波乱の生涯と、絶望・不安・単独者・実存という中心概念を、「生きることの苦悩にどう向き合うか」という一本の線で結んで解説します。著者は当棚1位『死に至る病』新訳の訳者。入門書と原典が同じ声でつながるので、ここから原典へ進むと理解が段違いです。
- 書名
- キェルケゴール 生の苦悩に向き合う哲学
- 著者
- 鈴木祐丞
- 出版社
- 筑摩書房(ちくま新書)
- 形式
- 新書
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——本格的だが最初の一冊にできる
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どんな本か——3行で
本書は、キェルケゴール研究者であり『死に至る病』の新訳者でもある鈴木祐丞による、新書の入門書です。デンマーク・コペンハーゲンに生きた思想家の生涯を丁寧にたどりながら、その体験から絶望・不安・単独者・実存といった鍵概念がどう生まれたかを結びつけて描きます。抽象的な用語解説から入るのではなく、「生きることの苦悩とどう向き合うか」という問いを軸に据えているのが特徴です。
核心——生涯と概念を結ぶ
キェルケゴールの思想が難しく感じられるのは、しばしばその言葉が彼自身の生の経験と分かちがたく結びついているからです。本書の強みは、婚約者レギーネとの別れ、匿名を駆使した独特の著作活動、そして晩年の教会に対する激しい批判といった生涯の出来事を、思想の展開と往復させながら読ませる点にあります。おかげで「単独者」や「実存」といった概念が、単なる術語ではなく、一人の人間がぎりぎりで掴んだ生き方の言葉として立ち上がってきます。しかも著者は原典の訳者ですから、概念の説明には研究に裏打ちされた確かさがあります。入門書にありがちな「わかりやすいが薄い」という物足りなさがなく、読み終えたときには、キェルケゴールという思想家の全体像と、次に原典のどこを読めばよいかの見当が同時に手に入ります。
読みどころ3点
1. 生涯と思想が往復する構成
出来事→思想、思想→出来事、という往復のなかで概念が説明されるので、記憶に残りやすく、腑に落ちます。人物伝としても普通におもしろく読めます。
2. 原典訳者による確かさ
著者は『死に至る病』を訳した研究者。入門でありながら、術語の扱いや原典への橋渡しに一貫した信頼があります。「入門書と原典で言葉づかいが食い違う」という初学者泣かせの問題が起きません。
3. 「向き合う哲学」という視点
本書はキェルケゴールを、遠い思想史の対象としてではなく、いまを生きる私たちが苦悩と向き合うための哲学として差し出します。読後、自分の悩みを言葉にする語彙が少し増えているはずです。
注意点
一点。本書は「本格入門」であって、簡単な要約集ではありません。生涯の細部や概念の説明にはそれなりの読み応えがあり、流し読みでは咀嚼しきれない箇所もあります。とはいえそれは弱点ではなく美点で、ここで手応えを得ておくと原典が近くなります。もし人物伝としてもっと平易に生涯から入りたければ、『人と思想19 キルケゴール』と併読・使い分けするとよいでしょう。
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