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『これからの「正義」の話をしよう』書評——正義論の地図を、一冊で手に入れる
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 正義論の「本丸」はこれです。ハーバードの伝説的講義をもとに、功利主義・自由の尊重・美徳と共通善という、正義への主要なアプローチを一本の物語として見渡せる現代のスタンダード。暴走する路面電車や兵役の売買といった具体的なジレンマから理論へ入る構成なので、480頁でも抽象論に迷子になりません。
- 書名
- これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学
- 著者
- マイケル・サンデル
- 訳者
- 鬼澤忍
- 出版社
- 早川書房(ハヤカワ文庫NF)
- 形式
- 文庫(480頁)
- 難易度
- 入門〜中級 ★★☆ ——1〜2週間
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どんな本か——3行で
ハーバード大学で歴代屈指の履修者を集めた政治哲学の講義「Justice」を、一般読者向けの一冊にまとめた本です。NHK「ハーバード白熱教室」で日本でも広く知られ、正義論ブームの起点になりました。功利主義のベンサムからカント、ロールズ、アリストテレスまで、正義をめぐる主要な理論家が、現実の事件と思考実験を入口に順番に登場します。
核心——正義への三つのアプローチ
本書の背骨はシンプルです。サンデルは、正義をめぐる議論を大きく三つのアプローチに整理します。①幸福の最大化——社会全体の効用を最大にする選択が正しいとする功利主義の系譜。②自由の尊重——個人の権利と選択の自由を何より優先する、リバタリアニズムからカント、ロールズにいたる系譜。③美徳と共通善——「よい生き方とは何か」を問うことを避けては正義を語れないとする、アリストテレス以来の系譜。本書の面白さは、この三つを中立に並べるだけでなく、サンデル自身が③の立場から①②を批判的に検討していくところにあります。読者は「解説」を読むのではなく、一つの立場からの「議論」に立ち会うことになります。この構図を知って読むと、本書は倍面白くなります。
読みどころ3点
1. ジレンマが先、理論が後
暴走する路面電車、ハリケーン後の便乗値上げ、兵役の代理人制度。章の入口は必ず具体的な事例で、理論はそれを解くための道具として登場します。哲学書で挫折した人ほど、この順序のありがたさが分かるはずです。
2. 反対意見が「強い」まま出てくる
サンデルは自分と対立する立場——たとえばリバタリアニズム——を、藁人形にせず最も説得力のある形で提示してから検討します。読者は各理論の「最良の形」を知ったうえで、自分の立場を選べます。
3. 講義の追体験ができる
問いを投げ、学生の答えを拾い、揺さぶり、次の理論へ渡す——白熱教室の呼吸がそのまま文章になっています。480頁ですが体感はずっと短く、講義を「聴く」ように読み進められます。
注意点
二点。第一に、前述のとおり本書は中立の教科書ではなく、共同体主義的な立場からの議論です。サンデルの結論を「正義論の結論」と受け取らず、一つの有力な立場として読んでください(それを相対化する目を養うのがSTEP 1〜2の役割でもあります)。第二に、ロールズやカントの章は入門書としてはやや歯ごたえがあります。分からない箇所は止まらずに進んで大丈夫——全体の見取り図が入れば、二周目は驚くほど楽になります。
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