『フッサール・セレクション』書評——入門と主著のあいだに架かる橋
★★★★☆4.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 解説を読み終え、いよいよフッサール自身の言葉に触れたい——そのタイミングにぴたりと合う一冊。編訳者・立松弘孝が、初期から後期までの主要テクストを精選しているので、いきなり膨大な主著を通読する負担を負わずに、核心的な文章へ直接入れます。論理学の基礎づけ、志向性、時間、そして生活世界へ——生涯にわたるフッサールの主題の変化が、読み切れる分量で並ぶ。入門・解説と主著のあいだの段差を、この選集がなだらかにしてくれます。
- 書名
- フッサール・セレクション
- 著者
- エトムント・フッサール/立松弘孝 編訳
- 出版社
- 平凡社ライブラリー
- 種別
- 選集(主要テクストのアンソロジー)
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——原典だが選集ゆえ入りやすい。解説を経てから
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どんな本か——3行で
本書は、フッサール研究・翻訳に長く携わってきた立松弘孝が、フッサールの主要なテクストを選び、訳し、編んだ選集(アンソロジー)です。一冊の主著を頭から通読するのではなく、テーマごと・時期ごとに独立した文章を、選ばれた順で読み進められます。初期の論理学をめぐる考察から、意識と志向性の分析、時間の問題、そして晩年の生活世界の思想まで——フッサール現象学の広がりと、生涯にわたる変遷を、一望できる構成になっています。膨大な著作を前に「どこから読めばいいか分からない」という初学者の迷いを、編集の力であらかじめ解いてくれる一冊です。
核心——生涯の思考を、選ばれた分量で
フッサールの著作は、その量と、たえず自らの立場を彫り直していく思考の運動ゆえに、いきなり一冊を通読すると全体の見通しを失いがちです。本書の価値は、その生涯にわたる思考の展開を、それぞれ独立したテクストで一望できる点にあります。現象学が、認識の基礎づけという初期の関心から出発し、意識の志向的な構造の分析へ進み、やがて内的時間意識や間主観性を経て、最晩年に「生活世界」という私たちの経験の大地へと降り立っていく——その一続きの歩みが、選ばれた文章を通して見えてきます。
また、フッサール自身の思考の運びと文体にここで慣れておけることが、後の主著攻略に効いてきます。彼の文章は、一つの事柄を、少しずつ角度を変え、留保を重ねながら精密に記述していく独特の運びを持ちます。解説書で「意味」を知っていても、この「記述の運び」に慣れていないと主著で失速しがちです。選集は、その運びに身体を慣らすためのウォーミングアップにもなります。
意識は、つねに「何ものかについての」意識である。だから世界を問うとは、対象そのものを外から問うことではなく、対象が意識にどう与えられ、どう意味づけられて立ち現れるかを、内側から問うことにほかならない。(本書に流れる基本的な発想を、編集部が要約したもの)
——本書に収められた思考の一端(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 初期から後期までを一望できる
論理学の基礎づけから生活世界まで、フッサールの主題の移り変わりを一冊で辿れます。ここを読んでおくと、どの主著が「思考のどの段階」に位置するのかが見えます。
2. テーマ別に読める自由
一冊を通読する義務がなく、関心のあるテクストから入れます。難所は飛ばし、惹かれた一篇を繰り返す——そんな柔軟な読み方が許されます。
3. 編訳者の見識に導かれる
何を選び、どう並べるかに、長年フッサールを訳してきた立松弘孝の見識が反映されています。独学では迷いがちな「読む順」が、選集の構成としてあらかじめ示されている安心感があります。
留意点と読み方
選集とはいえ、中身はまぎれもなくフッサールの原典です。解説書のように噛み砕いてはくれないので、1冊目・2冊目(鈴木崇志・竹田青嗣)で用語の地図と還元の手続きを掴んでから開くことを強くおすすめします。読み方のコツは、全部を一度に理解しようとしないこと。まずは志向性や時間意識など関心のある一篇に絞り、分からない箇所には印だけつけて先へ進み、主著を読んだ後にもう一度戻る——そういう往復を前提にすると、選集は何度も帰ってこられる拠点になります。逆に、ここを飛ばして主著へ直行すると、記述の密度に不意打ちを食らいやすいので注意してください。
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