『フッサール入門』書評——難解な現象学へ、最初に手渡される地図
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: フッサールを読み始めるなら、まずこの一冊。難解で知られる現象学を、新しい世代の研究者が「なぜこの概念が必要になったのか」という問題の発生からたどり直し、エポケー・現象学的還元・志向性・生活世界という鍵語に確かな輪郭を与えてくれます。新書という手に取りやすい形でありながら、内容は薄めず、主著への橋渡しまで見据えている。ここで用語の地図さえ持てば、後に続く解説も選集も主著も、驚くほど読みやすくなります。
- 書名
- フッサール入門
- 著者
- 鈴木崇志
- 出版社
- ちくま新書
- 種別
- 入門(新書サイズの解説書)
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——新書として明快。主著の前に読むための一冊
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どんな本か——3行で
著者の鈴木崇志は、フッサール現象学、とりわけ他者論や間主観性の研究で知られる、新しい世代の哲学研究者です。本書はその研究の蓄積を、新書一冊の分量に凝縮した入門書。フッサールが数学者として出発し、「論理や数の客観性はどこから来るのか」という問いから哲学へ踏み込み、やがて意識に現れる経験そのものの記述=現象学へと至った道のりを軸に据えながら、エポケーや志向性といった中心概念を、それが要請された文脈ごと解きほぐしていきます。「難解な用語をいきなり定義する」のではなく、「なぜフッサールはそう考えざるをえなかったのか」から説き起こすのが、本書の一貫した姿勢です。
核心——鍵語の地図を最初に手渡す
フッサールの思想を初学者が難しく感じる最大の理由は、鍵語がどれも日常語や既存の哲学用語の意味からずれて使われることにあります。本書の核心的な貢献は、その鍵語に一つずつ地図を与えてくれる点です。エポケー(判断中止)とは、「世界は当たり前に実在する」という自然な確信を、否定するのではなく、いったん括弧に入れて「その確信がどう成り立っているか」を眺める態度のこと。現象学的還元とは、そうして注意を、対象そのものから「対象が意識に現れてくる仕方」へと引き戻す操作を指します。
そして志向性とは、意識がつねに「何ものかについての意識」である、というその向かう性格のこと。フッサールはこの意識のはたらきの側面をノエシス、そこに現れる意味の側面をノエマと呼び分けます。本書はこれらの語を、具体的な知覚の例(一つの机を、見る角度によって違う見え方をしながら、なお「同じ一つの机」として捉えている、など)と結びつけて説明するので、抽象論が絵空事にならず、日常の経験に根ざした手応えを保ったまま頭に入ってきます。
フッサールにとって現象学とは、世界の存在を証明することでも否定することでもなく、世界が「たしかにある」と私たちに現れてくる、その現れ方そのものを、判断を保留したまま記述する試みである。(本書全体の趣旨を、編集部が要約したもの)
——『フッサール入門』の中心的な見取り図(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 問題の発生から思想へ——なぜこう考えたかが分かる
「論理や数の客観性の起源」という初期の問いから、意識の記述へ、さらに生活世界へと、フッサールの思考がどう展開したのか。本書はその筋道を丁寧に架橋するので、現象学の概念が「頭でひねり出した理屈」ではなく、必然的な歩みとして理解できます。
2. 主著への地図として設計されている
『イデーン』『デカルト的省察』『危機』といった主著の骨格が、あらかじめ見取り図として示されます。後に主著を開いたとき、「今どのあたりを読んでいるか」を見失わずにすむのは、この地図のおかげです。
3. 研究者ならではの正確さ
著者が第一線の研究者であるため、術語の訳し分けや原語のニュアンス、フッサール研究の現在の見取り図への目配りが行き届いています。入門書でありながら、いい加減な単純化に逃げない誠実さがあります。
留意点と読み方
本書は入門書のなかでも硬派な部類で、平易さだけを求めると少し歯ごたえを感じるかもしれません。文章そのものは明快ですが、扱う思想が思想だけに、一読で全部を飲み込もうとすると疲れます。おすすめは、まず通読して現象学の輪郭を掴み、鍵語(エポケー・還元・志向性・ノエシス/ノエマ・生活世界)だけは自分の言葉で言い直せるようにしておく読み方。細部は、後で解説書や主著を読みながら本書に戻って確認すれば十分です。もし「もっと具体的に、還元という操作そのものを追体験したい」と感じたら、次に紹介する竹田青嗣『超解読! はじめてのフッサール』を続けると、原典に沿って手続きをなぞる経験が緩衝材になります。
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