『アリストテレスの哲学』書評——「古くさい」という通説を、原典から崩す
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 入門の次に、もう一段深く読むなら、これです。研究の第一人者・中畑正志が、「アリストテレスは中世的で古くさい」という通説を、原典に立ち返って一つずつ問い直し、その思考がいかに現代的で刺激的かを描き出す本格的な概説。新書ながら読みごたえは十分で、入門書で全体像をつかんだ人が原典へ向かう際の、信頼できる並走者になってくれます。
- 書名
- アリストテレスの哲学
- 著者
- 中畑正志
- 出版社
- 岩波書店(岩波新書 新赤版1966)
- 形式
- 新書
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——概説だが読みごたえは十分
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どんな本か——3行で
アリストテレスは長らく、「近代科学に乗り越えられた古い自然観の持ち主」「中世スコラ哲学の権威」といったイメージで語られてきました。本書は、その通俗的な像を疑い、原典のテクストに丁寧に立ち返ることで、アリストテレスが実際には何を考えていたのかを描き直す本格的な概説です。研究の第一線に立つ著者が、教科書的な要約に収まらない、生きた思考としてのアリストテレス哲学を提示します。
核心——通説を原典で問い直す
本書を貫くのは、「私たちが知っているつもりのアリストテレス像は、後世の解釈や翻訳を通して曇っているのではないか」という問いです。たとえば、霊魂(プシュケー)や知性をめぐる議論、あるいは「実体」や「本質」といった中心概念について、著者は後代に固定した理解をいったん脇に置き、ギリシア語の原典が何を言おうとしているのかへと読者を連れ戻します。すると、心と身体、普遍と個体、可能性と現実性といった問題について、アリストテレスの考えが今なお私たちの通念を揺さぶる鋭さを持っていることが見えてきます。重要なのは、本書が単なる「復権のための礼賛」ではないことです。著者はアリストテレスを持ち上げるのではなく、テクストに即して緻密に読むことでしか見えてこない思考の手触りを伝えようとします。だからこそ本書は、入門書で得た地図に立体感を与え、これから原典を読む読者に「原典をどう読むか」という姿勢そのものを示してくれるのです。新書という限られた紙幅で、ここまで骨太な読解を提示できるのは、著者の力量あってこそでしょう。
読みどころ3点
1. 手垢のついた通説がはがれる
「アリストテレス=古い」という思い込みが、原典に即した読解で一つずつ崩されていきます。読み終える頃には、二千年前の哲学が驚くほど現代的な相貌で立ち上がっています。
2. 概念の解像度が上がる
実体・本質・霊魂・知性といった中心概念が、入門書よりも一段深い解像度で論じられます。原典で同じ語に出会ったとき、その厚みを感じ取れるようになります。
3. 「原典の読み方」が学べる
著者がテクストをどう扱い、どこで立ち止まって問うのかを追ううちに、原典に向き合う姿勢そのものが身につきます。次に岩波文庫を開くときの構えが変わります。
注意点
二点。第一に、本書は「入門書」ではなく「本格的な概説」です。『100分de名著』や『アリストテレス入門』で全体像をつかんでから読むと、議論の含意がずっとよく届きます。いきなり本書から入ると、前提知識の面で少し急に感じるかもしれません。第二に、扱う範囲は広く、各論点は凝縮されています。気になったテーマは、本書を足がかりに原典へ進むのが最良の使い方です。
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