『形而上学』書評——「有るとは何か」を問う、西洋哲学の根幹
★★★★★5.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 本棚で最も手強く、最も深い一冊です。「すべての人間は、生まれつき知ることを欲する」という一文で始まり、「有る(存在する)とはどういうことか」を問う、西洋哲学の根幹をなす主著。実体・本質・可能態と現実態など、後の哲学が二千年にわたって参照し続けた概念がここで鍛え上げられます。難所であることは正直に認めますが、アリストテレスの射程を本気で味わうなら避けて通れません。
どんな本か——3行で
『形而上学』は、アリストテレスがさまざまな時期に論じた「第一哲学」——個別の対象ではなく、あらゆるものに共通する「有ること(存在)」そのものを扱う学問——に関する諸論考を、後世の編者がまとめたものです。表題の「メタフュシカ(自然学の後に置かれた書)」という呼び名自体が、その編集の由来を示しています。上巻では、先行する哲学者たちの学説の吟味から始まり、「有るとは何か」という中心の問いへと歩みが進んでいきます。
核心——「有る」を問う学問
本書の中心にあるのは、「有る(存在する)」という言葉は、実は一通りの意味では使われていないという洞察です。机が「有る」のと、その机の色や大きさが「有る」のとでは、有り方が違う。アリストテレスは、こうした多様な「有る」のなかで、他のすべてが依存する中心的な有り方として「実体(ウーシア)」を据え、では実体とは何か——素材(質料)なのか、かたち(形相)なのか、その結合なのか——を執拗に問い詰めていきます。さらに、ものが「まだそうではないが、そうなりうる」状態(可能態)と「現にそうである」状態(現実態)という一対の概念を導入し、変化や生成をどう捉えるかを論じます。これらは抽象的な言葉遊びに見えて、じつは「世界はどんな仕組みで在り、変わっていくのか」という、最も根源的な問いへの答えの試みです。ここで鍛えられた概念枠は、中世哲学から近代の存在論まで、西洋の思考の骨組みを二千年にわたって規定し続けました。哲学が「存在とは何か」を問い続ける限り、本書はその出発点であり続ける——それが、この難解な書物を古典中の古典たらしめている理由です。
読みどころ3点
1. 哲学史そのものが動き出す冒頭
上巻の序盤は、タレス以来の先行哲学者たちの学説の検討にあてられます。アリストテレスが先人をどう読み、どこで乗り越えようとしたのか——西洋哲学史の「最初の総括」を、当事者の視点から読める贅沢があります。
2. 「実体とは何か」という問いの粘り
質料か、形相か、その両方か。アリストテレスが答えを一気に出さず、可能性を一つずつ検討していく粘り強さそのものが、哲学的思考の手本です。結論より、問いの立て方と歩みに学べます。
3. 後世への射程が桁違い
実体・本質・可能態と現実態——本書の概念は、その後の哲学の共通語になりました。ここを読んでおくと、中世から近代までの存在論の議論が、すべて本書への応答として見えてきます。
注意点
正直に記します。二点。第一に、本書は編者が複数の論考を集成したもので、必ずしも一本の筋で書き下ろされていません。同じ問題が別の角度から反復されたり、議論が途中で転じたりするため、通読には忍耐が要ります。本棚で最も手強い一冊であることは隠しません。第二に、術語の重みが大きく、予備知識なしに単独で挑むと迷子になりがちです。『アリストテレス入門』や『アリストテレスの哲学』で「実体」「四原因」などの鍵概念を押さえ、代表作『ニコマコス倫理学』で原典の呼吸に慣れてから挑むことを強くおすすめします。上巻から少しずつ、が正解です。
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