『加速主義 増補新版』書評——挑発的な思想へ、最初に手渡される地図
★★★★★4.6 / 5.0(編集室評価)
結論: 加速主義を読み始めるなら、まずこの一冊。賛否の激しい思想を、木澤佐登志が思想史の文脈からたどり直し、「左派加速主義/右派加速主義」「新反動主義」「暗黒啓蒙」という鍵語に確かな輪郭を与えてくれます。新書という手に取りやすい形でありながら内容は薄めず、ニック・ランドの原典へ入る前の見取り図まで用意している。ここで地図さえ持てば、後に続く講義録も原典も、驚くほど読み解きやすくなります。
- 書名
- 加速主義 増補新版 ニック・ランドと新反動主義
- 著者
- 木澤佐登志
- 出版社
- 星海社新書
- 種別
- 入門・概説(新書サイズの解説書)
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——新書として明快。原典の前に読むための一冊
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どんな本か——3行で
著者の木澤佐登志は、ダークウェブやインターネット文化、そして加速主義・新反動主義の紹介者として知られる文筆家です。本書は、日本ではまとまった見取り図が乏しかった加速主義を、一冊で概観できるよう書かれた概説書。ニック・ランドという中心人物の思想的軌跡(1990年代の英ウォーリック大学「CCRU」時代から、後年の右傾化・暗黒啓蒙まで)を軸に、加速主義がなぜ左派と右派に分かれ、どこで新反動主義(ネオリアクション)と接続したのかを解きほぐしていきます。「難解な原典をいきなり定義する」のではなく、「この思想がどんな問いに応答しようとしたのか」から説き起こすのが、本書の一貫した姿勢です。増補新版では、その後の展開を追う記述が加えられています。
核心——加速主義の見取り図を最初に手渡す
加速主義を初学者が難しく感じる最大の理由は、この語が正反対の政治的方向を同時に指しうる点にあります。本書の核心的な貢献は、その分岐に一つずつ地図を与えてくれることです。加速主義の共通前提は、資本主義とテクノロジーの加速を「止める」のではなく、むしろ徹底的に推し進めた先に変化の可能性を見る、という発想。ここから左派加速主義は、資本主義が生み出した生産力・技術を、資本とは別の解放的な目的へ振り向けようとします。他方右派加速主義、とりわけニック・ランドの暗黒啓蒙は、平等や民主主義そのものを桎梏とみなし、反動的・反民主主義的な方向へ突き抜けていきます。
本書はこれらの分岐を、思想史的な経緯(サイバーパンク、資本と技術をめぐる哲学、そしてインターネット上の政治運動)と結びつけて説明するので、抽象論が宙に浮かず、なぜこの思想が現代で影響力を持つのかという実感とともに頭に入ってきます。新反動主義(ネオリアクション、NRx)という近年の政治潮流と加速主義がどう絡み合ったのかも、本書は落ち着いた筆致で整理します。
加速主義とは、加速を止めることではなく、加速そのものを引き受けたうえで、その先に別の未来を見ようとする賭けである——だからこそ、それは解放へも反動へも枝分かれしうる。(本書全体の趣旨を、編集部が要約したもの)
——『加速主義 増補新版』の中心的な見取り図(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 左派/右派の分岐を、混同せず整理してくれる
加速主義をめぐる議論は、この基本的な分岐を押さえないまま進むと必ず混乱します。本書はそこを最初に腑分けするので、以降どの論者の主張に出会っても、それが解放の側か反動の側かを見失わずに読めます。
2. ニック・ランドという人物を軸に読める
思想を人物の軌跡として描くため、抽象的な「主義」の羅列にならず、ランドがなぜ左から右へ、哲学からインターネット政治へと移っていったのかが物語として理解できます。原典を読む前の心構えが整います。
3. 紹介者ならではの目配り
著者はランドの原典の共訳も手がけており、用語や固有名への目配りが行き届いています。概説書でありながら、いい加減な単純化に逃げない誠実さがあります。
留意点と読み方
本書は概説書のなかでも射程が広い部類で、加速主義に隣接する多くの固有名(哲学者・運動・作品)が登場するため、初読で全部を追おうとすると少し情報量に押されるかもしれません。おすすめは、まず通読して「左派/右派」「新反動主義」「暗黒啓蒙」という骨格だけは自分の言葉で言い直せるようにしておく読み方。細部の固有名は、後で原典や他の本を読みながら本書に戻って確認すれば十分です。また、本書は加速主義を紹介・整理する立場であり、その思想を丸ごと擁護する本ではありません。ランドの右派的主張の過激さについても、距離を保った記述がなされています。もし同時代の思想の布置のなかで加速主義を眺めたくなったら、次に紹介する樋口恭介『21世紀を動かす思想』を挟むと視野が横に広がります。
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