本ページはプロモーション(PR)を含みます。紹介書籍のリンクはAmazonアソシエイト・リンクです。

加速主義の本棚

加速するのか、離脱するのか。

ホームおすすめ5選 › ポスト資本主義の欲望

『ポスト資本主義の欲望』書評——資本主義の外を、欲望から問い直す

2026-07-12|加速主義の本棚 編集室

★★★★☆4.5 / 5.0(編集室評価)

結論: 左派加速主義の問題意識に、いちばん人間的な入口から触れられる一冊。『資本主義リアリズム』で知られるマーク・フィッシャーの最終講義録で、「資本主義の外を想像することはなぜこれほど難しいのか」を、欲望という切り口から粘り強く問い直します。学術論文ではなく講義の語り口なので、思考の運びをそのまま追体験できるのが魅力。概説で地図を得たあと、ランドの原典へ進む前の、絶好の橋渡しになります。星は思想的な射程への評価。未完の講義録という性格上、体系性は求めすぎないでください。

ポスト資本主義の欲望(装丁風イメージ・当サイト作成)
書名
ポスト資本主義の欲望
著者
マーク・フィッシャー/大橋完太郎 訳
出版社
Pヴァイン(ele-king books)
種別
講義録(最終講義の記録)
難易度
中級 ★★☆ ——講義体で読みやすいが、背景知識があると深く読める

単行本/価格・在庫はAmazonの商品ページでご確認ください

どんな本か——3行で

マーク・フィッシャーは、著書『資本主義リアリズム』で「資本主義の外を想像することは、世界の終わりを想像するより難しくなった」という診断を突きつけた、イギリスの批評家・思想家です。ニック・ランドとも縁の深いウォーリック大学「CCRU」の周辺にいた人物でもあります。本書は、その彼が生前最後に担当していた大学院講義の記録。ポスト資本主義(資本主義の後)を欲望の側から構想できるかを主題に、精神分析・カウンターカルチャー・音楽・政治を横断しながら講義は進みます。惜しくも講義は途中で中断され、未完のまま遺されました。

核心——欲望から、資本主義の外を問う

本書の中心にあるのは、「私たちの欲望そのものが、すでに資本主義によって形づくられているのではないか」という問いです。資本主義に反対することは容易でも、資本主義が与えてくれる快適さ・刺激・便利さへの欲望から自由になるのは難しい。左派はしばしば、禁欲や我慢を説くことで資本主義に対抗しようとしてきました。しかしフィッシャーは、そこに罠を見ます。欲望を否定するのではなく、資本主義が解き放った欲望やテクノロジーを、資本とは別の未来へ振り向けられないか——これは、左派加速主義の中心的な問題意識そのものです。

ここで重要なのは、フィッシャーが1970年代のカウンターカルチャーや、快楽と解放をめぐる過去の実験を掘り起こし、「かつて別の未来がありえた」瞬間を思い出させようとする点です。資本主義リアリズム——資本主義の外はもう想像できない、というあの閉塞感——を破るために、彼は欲望の歴史を遡り、別の可能性の痕跡を探します。加速主義がなぜ「加速の先」に賭けるのか、その心情の核が、本書を通じて肌で理解できます。

問題は、欲望を捨てることではない。資本主義が解き放った欲望を、資本とは別の未来へどう振り向けるか——ポスト資本主義とは、欲望の禁止ではなく、その組み替えの構想である。(本書の趣旨を、編集部が要約したもの)

——『ポスト資本主義の欲望』の中心的な問い(編集部による大意)

読みどころ3点

1. 「資本主義リアリズム」を体感的に理解できる

フィッシャーの代名詞である閉塞の診断が、講義の語り口で具体的に展開されます。加速主義がなぜ生まれたのか、その時代の気分ごと掴めます。

2. 左派加速主義の心情がわかる

欲望を否定せず組み替える、という発想は、右派の暗黒啓蒙とは対照的な加速主義のもう一つの顔です。ランドの原典に進む前に、この対比を知っておくと理解が立体的になります。

3. 講義録ならではの臨場感

完成した論文ではなく、思考が生まれる現場の記録。フィッシャーが学生と考えを練り上げていく息づかいが、そのまま残っています。

留意点と読み方

最大の留意点は、本書が未完の講義録だということです。講義はフィッシャーの逝去により途中で終わっており、結論がきれいにまとまる本ではありません。体系的な「左派加速主義入門」を期待すると、拍子抜けするかもしれません。おすすめの読み方は、結論を取り出そうとせず、彼の思考の運びそのものに付き合うこと。また、精神分析(とりわけ欲望をめぐる議論)やイギリスのカウンターカルチャーへの言及が多いため、木澤佐登志『加速主義』で全体の地図を持ってから読むと、各論点が加速主義のどこに効いているのかを見失わずにすみます。ここまでで左派側の問題意識を掴んだら、いよいよ対照的な右派の原典、ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』へ進めます。

編集室メモ 本評は本書の通読と、フィッシャーの他の著作(『資本主義リアリズム』等)および左派加速主義関連の書誌調査にもとづく評価です。読了目安は約8時間(講義の背景を調べながら読むと、さらにかかります)。星は思想的射程への評価で、未完の講義録という性格上、体系性・完結性は割り引いて捉えています。本ページで示した「資本主義リアリズム」「欲望の組み替え」の説明と引用ブロックは、いずれも編集部による要約・大意であり、本書や大橋完太郎訳の訳文をそのまま転載したものではありません。正確な言い回しは本書でご確認ください。著者・訳者・出版社(マーク・フィッシャー/大橋完太郎 訳/Pヴァイン・ele-king books)は書誌情報にもとづき記載しています。

単行本/価格・在庫はAmazonの商品ページでご確認ください