『レヴィナス入門』書評——難解な思想へ、最初に手渡される地図
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: レヴィナスを読み始めるなら、まずこの一冊。難解で知られる思想を、研究の第一人者が生い立ちと時代背景からたどり直し、〈他者〉〈顔〉〈全体性と無限〉という鍵語に確かな輪郭を与えてくれます。新書という手に取りやすい形でありながら、内容は薄めず、主著への橋渡しまで見据えている。ここで用語の地図さえ持てば、後に続く選集も主著も、驚くほど読みやすくなります。
- 書名
- レヴィナス入門
- 著者
- 熊野純彦
- 出版社
- ちくま新書
- 種別
- 入門(新書サイズの解説書)
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——新書として明快。主著の前に読むための一冊
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どんな本か——3行で
著者の熊野純彦は、西洋哲学史とレヴィナス研究で知られる哲学者で、『全体性と無限』の翻訳も手がけた人物です。本書はそのレヴィナス理解の蓄積を、新書一冊の分量に凝縮した入門書。レヴィナスの生涯(リトアニア出身のユダヤ人として、ナチスの捕虜収容所を経験し、その後フランスで思索を深めた道のり)を軸に据えながら、〈他者〉や〈顔〉といった中心概念を、思想が生まれた文脈ごと解きほぐしていきます。「難解な用語をいきなり定義する」のではなく、「なぜレヴィナスはそう考えざるをえなかったのか」から説き起こすのが、本書の一貫した姿勢です。
核心——鍵語の地図を最初に手渡す
レヴィナスの思想を初学者が難しく感じる最大の理由は、鍵語がどれも日常語の意味からずれて使われることにあります。本書の核心的な貢献は、その鍵語に一つずつ地図を与えてくれる点です。〈他者〉とは、私が自分の理解の枠に決して収めきれない存在——私が「こういう人だ」と要約したとたんに取りこぼされてしまう、私ならざるものの絶対的な外部です。〈顔〉とは、その他者が私に現れる仕方のこと。目鼻立ちという意味ではなく、私に「あなたは私を殺してはならない」と無言で呼びかけ、私に responsibility(応答する責め)を負わせてくるものを指します。
そして〈全体性〉とは、あらゆるものを一つの体系・一つの「私の理解」へ回収しようとする思考のこと。レヴィナスはこれを西洋哲学の根深い傾向として批判し、それに回収されない〈他者〉との出会いを〈無限〉と呼びます。本書はこれらの語を、レヴィナスの伝記的経験(他者の死、暴力、責任)と結びつけて説明するので、抽象論が絵空事にならず、切実な重みを保ったまま頭に入ってきます。
レヴィナスにとって倫理とは、規則を守ることではなく、私の手前に立つ他者の〈顔〉に応答してしまう、そのことの謂いである。(本書全体の趣旨を、編集部が要約したもの)
——『レヴィナス入門』の中心的な見取り図(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 伝記から思想へ——なぜこう考えたかが分かる
収容所体験やホロコーストといった生の経験と、〈他者〉や倫理の哲学がどうつながっているのか。本書はそこを丁寧に架橋するので、レヴィナスの概念が「頭でひねり出した理屈」ではなく、生きられた必然として理解できます。
2. 主著への地図として設計されている
『全体性と無限』『存在の彼方へ』という主著の骨格が、あらかじめ見取り図として示されます。後に主著を開いたとき、「今どのあたりを読んでいるか」を見失わずにすむのは、この地図のおかげです。
3. 訳者ならではの正確さ
著者自身が主著の翻訳者でもあるため、用語の訳し分けや原語のニュアンスへの目配りが行き届いています。入門書でありながら、いい加減な単純化に逃げない誠実さがあります。
留意点と読み方
本書は入門書のなかでも硬派な部類で、平易さだけを求めると少し歯ごたえを感じるかもしれません。文章そのものは明快ですが、扱う思想が思想だけに、一読で全部を飲み込もうとすると疲れます。おすすめは、まず通読してレヴィナスの世界の輪郭を掴み、鍵語(他者・顔・全体性・無限)だけは自分の言葉で言い直せるようにしておく読み方。細部は、後で選集や主著を読みながら本書に戻って確認すれば十分です。もし「もっと肩の力を抜いて入りたい」と感じたら、次に紹介する内田樹『レヴィナスと愛の現象学』を先に挟むと、語り口の柔らかさが緩衝材になります。
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