『形而上学叙説』書評——なぜこの世界が「最善」なのか
★★★★☆4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 『モナドロジー』が結論の綱要なら、こちらはその結論がなぜ導かれるのかを論じる「体系の骨格」です。「神は可能な世界のうち最善のものを選んだ」「一つの実体はその述語をすべて含む完全概念をもつ」——ライプニッツ形而上学の中心思想が、ここで正面から述べられます。併載のアルノーとの往復書簡が、自説を弁明し鍛える生きた思考の現場を見せてくれるのも大きな魅力です。
- 書名
- 形而上学叙説 他五篇
- 著者
- ゴットフリート・ライプニッツ
- 訳者
- 佐々木能章
- 出版社
- 岩波書店(岩波文庫)
- 形式
- 文庫
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——論証を追う体力が要る
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どんな本か——3行で
『形而上学叙説』は、1686年ごろ、円熟期に入ったライプニッツが自らの哲学の骨格を初めて体系的に書きまとめた比較的短い論考です。『モナドロジー』の約30年前にあたり、後年の思想の芽がここにほぼ出そろっています。この岩波文庫版は「他五篇」として、盟友アルノーとの往復書簡など関連テクストを併載し、ライプニッツが自説を提示し、批判に応え、鍛えていく過程まで追えるのが特長です。
核心——完全概念と最善世界
本書の中心には二つの有名な主張があります。ひとつは実体の完全概念。ある個体(たとえばアレクサンドロス大王)には、その人に起こるすべての出来事があらかじめその「概念」に含まれている、という考えです。ここから、各実体が自分の内から全歴史を展開するという、後のモナド論につながる直観が生まれます。もうひとつが最善世界説。完全で善なる神は、無数に可能な世界のうち、最も豊かで秩序ある最善の世界を選んで創造した——だからこの世界の悪や不完全さにも、全体としての最善に資する理由がある、と説きます。これは後に「弁神論」として展開され、ヴォルテールの風刺(『カンディード』の「最善説」批判)を呼ぶことにもなる、ライプニッツ思想の要です。抽象的に見える議論が、神・自由・悪といった切実な主題に直結していることが、読み進めるほど分かってきます。
読みどころ3点
1. 体系の「なぜ」がわかる
『モナドロジー』では結論だけが示される最善世界や実体論が、本書では論証つきで展開されます。「なぜそう言えるのか」を追えるので、綱要を読んだだけでは腑に落ちなかった部分が埋まります。
2. アルノーとの書簡が生きている
併載の往復書簡では、鋭い批判者アルノーの反論に、ライプニッツが手を替え品を替え応じます。完成した体系ではなく、疑問にさらされ鍛えられていく思考のライブ感が味わえ、理解が一段深まります。
3. 神学と哲学の結び目が見える
最善世界・自由・悪といった主題を通じて、ライプニッツにおいて形而上学と神学が分かちがたく結びついていることが実感できます。近世哲学が神をどう扱ったかを知る好個の一次資料です。
注意点
二点。第一に、『モナドロジー』より論証が込み入っており、一文が長い箇所もあります。入門書で最善世界や完全概念の要点を先につかんでおくと、格段に読みやすくなります。第二に——重要な点です——本書の中心テクスト『形而上学叙説』は、中公クラシックスの合本『モナドロジー/形而上学叙説』にも収録されています。岩波版は「他五篇」(アルノー宛書簡など)まで読める利点があり、中公版は『モナドロジー』と1冊にまとまる利点があります。どちらか一方で十分で、両方を買う必要はありません。
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