『100分de名著 カント 純粋理性批判』書評——最難関の山の、いちばん親切な登山案内
★★★★☆4.1 / 5.0(編集室評価)
結論: 『純粋理性批判』の中身に特化した入門として推薦します。テレビ番組(2020年6月放送)のテキストを著者自身が増補したもので、数時間で主著の骨格が見渡せるのが最大の価値。主著に挑む人が最後まで手元に置く「携行地図」にもなります。
- 書名
- NHK「100分de名著」ブックス カント 純粋理性批判——答えの出ない問いはどのように問われるべきか?
- 著者
- 西研
- 出版社
- NHK出版(番組テキストの増補版)
- 形式
- 番組発の入門解説+書き下ろし章
- 難易度
- 入門 ★☆☆ ——約3時間
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どんな本か——3行で
現象学を土台に「哲学の共通了解」を探る哲学者・西研が、Eテレ「100分de名著」で行った『純粋理性批判』解説を、書籍版としてまとめ直し増補したものです。番組4回分の構成に、書き下ろしの特章「なぜ認識論が必要なのか」が加わっています。テレビ発ならではの、専門用語を噛み砕く工夫が全編に効いています。
核心——「答えの出ない問い」の問い方
副題が本書の軸です。神は存在するか、宇宙に始まりはあるか、魂は不滅か——人類が何千年も争ってきたこれらの問いに、カントは「答え」を出しませんでした。代わりに、なぜこれらの問いには答えが出ないのかを証明するという、前代未聞の手を打ちました。
理性には守備範囲がある。経験できる世界の内側では理性は強力に働くが、その外(神・宇宙の全体・魂)へ出た瞬間、正反対の結論を等しく「証明」してしまう——これが有名なアンチノミー(二律背反)です。本書はこの「理性の限界画定」という主著の核心を、哲学用語の砦を迂回して、問いの切実さから説明します。入口の本として、この順序は正しいです。
読みどころ3点
1. 感性論・分析論・弁証論の見取り図
『純粋理性批判』の三部構成が「われわれはどう世界を受け取るか」「どう考えるか」「どこで道を踏み外すか」という三つの質問に対応することが、番組由来の平明さで示されます。主著の目次が「読める目次」に変わります。
2. コペルニクス的転回の説明
「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う」。この有名な転回を、著者は日常の知覚の例から立ち上げます。ここが腑に落ちれば、主著の前半(感性論・分析論)は方向を見失いません。
3. 増補章「なぜ認識論が必要なのか」
書籍版だけの特章で、そもそも認識論という営みが何のためにあるのかを、相対主義の問題から説き起こします。番組を見た人にも、この章だけで書籍版の価値があります。
注意点
二点。第一に、本書は『純粋理性批判』に特化しており、倫理学(定言命法)や平和論はほぼ扱いません。カントの全体像は『自分で考える勇気』の担当です。第二に、著者の現象学的な関心(共通了解の哲学)が解釈ににじむ箇所があります。読みやすさの代償として「一つの読み筋」であることは意識しておいてください——これは竹田青嗣『超解読!』にも共通する注意です(両者は共同研究の間柄でもあります)。
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