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『ティク・ナット・ハンの般若心経』書評——「空」を、つながりとして
★★★★☆4.0 / 5.0(編集室評価)
結論: 伝統的な入門で足場を作ったあと、「空」を現代のことばで受け取り直したい人のための発展編です。世界的に知られたベトナム出身の禅僧ティク・ナット・ハンが、般若心経を「相互存在(インタービーイング)」——すべてがつながり合って在ること——として読み解きます。「空」を虚無や否定として恐れずにすむ、明快であたたかい読み。日本の伝統的解説とはまた違う手ざわりの一冊です。
- 書名
- ティク・ナット・ハンの般若心経
- 著者
- ティク・ナット・ハン/馬籠久美子 訳
- 出版社
- 野草社
- 形式
- 現代的解釈(禅僧による講話の翻訳・単行本)
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——平易だが前提知識があると深い
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どんな本か——3行で
著者のティク・ナット・ハンは、マインドフルネスの実践を世界に広めたことで知られる、ベトナム出身の禅僧です。本書は、彼が般若心経をみずからの言葉で読み直し、現代の読者へ語りかけた一冊で、馬籠久美子による日本語訳で読めます。伝統的な語釈をなぞるのではなく、「この経文は、今を生きる私たちの生き方に何を示すのか」を、平明で詩的なことばで説くのが特徴です。日本の入門書とは出自の異なる、現代仏教の視点からの般若心経です。
核心——相互存在(インタービーイング)
本書の中心にあるのが、「相互存在(インタービーイング)」という著者独自のことばです。これは「空」を説明するために彼が用いる鍵概念で、あらゆるものは単独では存在せず、他のすべてとの関わりのなかでのみ在る、という見方を指します。一枚の紙の中に、雨や雲や太陽や、それを漉いた人の手が含まれている——だから紙は「紙でないもの」でできている、という有名なたとえは、まさに「色即是空」を現代の感覚で言い換えたものです。「空」を「何もない」という否定として受け取ると般若心経は暗く冷たく感じられますが、著者はそれを「すべてがつながって在る」という肯定へと反転させます。この読み替えが、本書のいちばんの手柄です。
マインドフルネス(気づき)の実践者らしく、概念を頭で理解して終わらせず、日々の呼吸や暮らしのなかで感じ取ることへ促す語り口も一貫しています。
読みどころ3点
1. 「空」を肯定として読み替える
虚無ではなく、つながりとして「空」をとらえ直す視点は、伝統的な解説で残りがちな「空=むなしさ」という誤解をほどいてくれます。
2. 具体的なたとえの巧みさ
紙・雲・花といった身近なイメージで抽象概念を語るため、哲学用語に頼らずに核心が伝わります。詩的で、記憶に残ります。
3. 世界的視点からの般若心経
日本の伝統的解説とは異なる、現代仏教・マインドフルネスの文脈からの読みに触れられます。般若心経の受け取り方の幅が広がります。
挫折ポイントと読み方
本書自体は平明で、読み進めるのに苦労はありません。ただし発展編として置くのには理由があります。本書は伝統的・学問的な語釈からはあえて距離を取り、著者独自の読みを前面に出しているため、これを最初の一冊にすると「一般的な般若心経の理解」と「ティク・ナット・ハンの解釈」の境目が見えにくくなります。解説書や入門書、できれば岩波文庫の原典で伝統的な足場を作ってから読むと、彼の読み替えがどこで効いているかがはっきりし、面白さが増します。読み方としては、概念を分析するより、たとえに身をゆだねて味わうのが本書に合っています。
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