『決定版 第二の性 I 事実と神話』書評——源流を、自分の目で読む
★★★★★4.6 / 5.0(編集室評価)
結論: ここまでの4冊が何度も参照してきた原典。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」——20世紀フェミニズムの出発点にして到達点です。第Ⅰ巻「事実と神話」は、神話・生物学・精神分析から「女とは何か」を根源から問い直します。原文への忠実さを期した河出文庫の決定版新訳で、あの一文の射程を自分の目で確かめられます。
- 書名
- 決定版 第二の性 I 事実と神話
- 著者
- シモーヌ・ド・ボーヴォワール
- 訳者
- 『第二の性』を原文で読み直す会
- 出版社
- 河出文庫(2023年)
- 形式
- 文庫・568頁
- 難易度
- 上級(原典)★★★ ——2〜3週間
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どんな本か——3行で
1949年に刊行され、20世紀フェミニズムの流れを決定づけたボーヴォワールの主著です。全体は二巻構成で、本書はその第Ⅰ巻「事実と神話」。生物学・精神分析・史的唯物論の各観点を検討し、さらに文学や神話のなかで「女」がどう表象されてきたかを解剖します。以後のあらゆるフェミニズムが、賛成であれ批判であれ、ここを出発点にしてきました。
核心——「女になる」とはどういうことか
本書の主題は、あまりに有名な一文に凝縮されています。
人は女に生まれるのではない、女になるのだ。
シモーヌ・ド・ボーヴォワール『第二の性』(『第二の性』を原文で読み直す会 訳、河出文庫)より
「女」とは生まれつきの本質ではなく、社会と歴史がつくり上げる後天的なもの——この宣言が革命的だったのは、「女らしさ」を自然の宿命の座から引きずり下ろし、変えうる制度の問題へと置き換えた点にあります。第Ⅰ巻でボーヴォワールは、その「つくられ方」を、生物学が語る事実、精神分析が語る物語、そして神話が男たちに供給してきた「女」のイメージへと順に分け入って暴いていきます。本棚1〜4位で学んだ「四つの波」も「沈黙させられること」も、たどっていけばこの一冊の問題設定に行き着く——そのことを、原典を読んで初めて骨身で理解できます。
読みどころ3点
1. 「神話」の章の切れ味
男性作家たちの作品に描かれた「女」を読み解く後半は、文学批評としても圧巻です。理想化と蔑視が裏表であることが、具体例で容赦なく示されます。
2. 原文に忠実な新訳という意義
旧訳には、当時の日本語の男性的な視点から原文が読み替えられた箇所があったとされます。本決定版は原文の内容と文体をできるだけ忠実に伝えることを期しており、「あの一文」の含意を正確に受け取れます。
3. 「読み通した」という経験そのもの
入門書で要約を読むのと、原典を自分で通読するのは別の経験です。ここまでの4冊が引用してきた原文を自分の目で確かめたとき、フェミニズムは「借り物の知識」から「自分の理解」に変わります。
注意点
三点。第一に、本書は決してやさしくありません。文庫で568頁あり、当時の哲学(実存主義)や生物学・精神分析の知識を前提にした議論が続きます。本棚1〜4位を経ずにここから始めると、高い確率で挫折します——だから読む順番の最後に置いています。第二に、1949年の著作ゆえ、現在の視点からは古びた記述や議論もあります。歴史的文脈のなかで読むことが大切です。第三に、これは第Ⅰ巻「事実と神話」です。女性の生きられた経験を扱う第Ⅱ巻「体験」へと続きます。まずⅠを読み通せたら、Ⅱへ進んでください。
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