『自分とか、ないから。』書評——絶望の底で出会う、東洋哲学という救い
★★★★★4.5 / 5.0(編集室評価)
結論: 東洋哲学を学び始めるなら、まずこの一冊。「無我」や「空」を教科書のように定義するのではなく、人生に行き詰まった著者が哲人たちに救われていく物語として体験させてくれます。SNSで話題になっただけあって圧倒的に読みやすく、笑っているうちに東洋思想の勘どころが腑に落ちる。ここで発想の芯さえ掴めば、後に続く名著も、驚くほど読みやすくなります。
- 書名
- 自分とか、ないから。教養としての東洋哲学
- 著者
- しんめいP(監修:鎌田東二)
- 出版社
- サンクチュアリ出版
- 種別
- 超入門(物語仕立ての解説書)
- 難易度
- 超入門 ★☆☆ ——予備知識ゼロで読める。最初の一冊に最適
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どんな本か——3行で
著者のしんめいPは、東大を出ながらも仕事や人生に行き詰まり、いわば人生の「詰み」を経験した人物です。本書は、その絶望の底で出会った東洋哲学——ブッダの無我、龍樹の空、老子・荘子の道、親鸞の他力、そして禅——が、どう自分を救ったのかを、当事者の実感として語り直した超入門書です。学術的な解説書ではなく、「東洋哲学で本当に楽になれるのか」を体を張って確かめた記録であり、難語をいっさい怖がらせずに手渡してくれます。監修は宗教学者の鎌田東二が務めています。
核心——「自分」を手放すという発想
本書が一貫して伝えるのは、東洋哲学に通底する一つの発想の転換です。西洋的な常識では、「確かな自分」を築き、それを強くしていくことが人生の課題とされます。ところが東洋の哲人たちは、その逆を説きました。「自分」という確かな実体など、そもそも存在しない(無我)——だからこそ、それをつかもう・守ろうと必死になるほど苦しくなる、と。著者は自身の「詰み」体験を通して、この発想がいかに人を楽にするかを描きます。
とりわけ本書が巧みなのは、難解な概念を著者の物語に溶かし込む点です。龍樹の「空」——あらゆるものは単独では成り立たず、関係のなかで仮にそう在るにすぎない——という考えも、老荘の「道」——人為をやめて自然のなりゆきに身を委ねる——という姿勢も、著者が実際にそれで救われた経験とセットで語られるので、抽象論のまま素通りしません。
「自分」をしっかり持とうとするから苦しい。もともと固定した自分など無いのだと知れば、しがみつく手をほどける——本書が哲人たちから引き出す、その一点。(本書全体の趣旨を、編集部が要約したもの)
——『自分とか、ないから。』の中心的な見取り図(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 「詰み」からの回復物語として読める
本書の最大の強みは、哲学が抽象論ではなく切実な救いとして描かれること。著者自身の行き詰まりと回復が縦糸なので、なぜこの思想が必要だったのかが感情ごと理解でき、読み手自身の悩みとも自然に接続します。
2. 東洋哲学の主要人物をひと通り見渡せる
ブッダ・龍樹・老子・荘子・親鸞と、インド・中国・日本の代表的な哲人が一冊に登場します。それぞれの核となる発想が実感つきで頭に入るので、次に思想史の全体像を学ぶときの「人物の顔ぶれ」が先に揃います。
3. 笑いが理解を助ける
ユーモアあふれる語り口は、単に読みやすいだけではありません。深刻になりがちな「無」や「空」の話を、肩の力を抜いて受け取れるようにしてくれる。これは東洋哲学の軽やかさそのものと響き合っています。
留意点と読み方
本書はあくまで体験にもとづく超入門であり、学術的な厳密さや、各思想の細かな相違の整理を求める本ではありません。無我・空・道といった概念は、実感が伝わる範囲でやさしく噛み砕かれているぶん、専門的な定義とは強調点がずれることもあります。おすすめの読み方は、まず物語として一気に読み、「東洋哲学はこういう発想なのか」という全体の手応えを掴むこと。厳密な整理は、次に思想史の入門書へ進んで補えば十分です。「もっと系統立てて全体像を知りたい」と感じたら、次に紹介する飲茶『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』が、ちょうどよい地図になります。
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