『東洋的な見方』書評——禅の巨人が語る、分別を超えた眼
★★★★★4.6 / 5.0(編集室評価)
結論: 入門書で概念を掴んだあと、東洋思想の「肉声」に初めて触れるならこの一冊。禅を世界へ紹介した鈴木大拙が、晩年に平明な言葉で「東洋的なものの見方とは何か」を語ります。難解な専門書ではなく、しかし内容は深い。分けて捉える西洋的な知に対し、分別の手前で物をまるごと見る東洋の眼を、具体的に示してくれます。編者・上田閑照の精選が、初学者にちょうどよい入口を開いています。
- 書名
- 東洋的な見方(新編)
- 著者
- 鈴木大拙/上田閑照 編
- 出版社
- 岩波文庫
- 種別
- 名著(晩年のエッセイ・論考の精選集)
- 難易度
- 中級 ★★☆ ——文章は平明だが、内容には深い含みがある
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どんな本か——3行で
著者の鈴木大拙は、禅(Zen)という語とその思想を英語圏へ広め、20世紀を通じて東洋思想を世界に届けた仏教哲学者です。本書は、その大拙が晩年に書いた「東洋的な見方」をめぐる文章を中心に、弟子である哲学者・上田閑照が精選して編んだ一冊。大部の全集ではなく、初学者が東洋的なものの見方の核心に触れられるよう、平明で射程の広い文章が選ばれています。学術論文というより、長年思索を重ねた人の到達点が、こなれた言葉で語られる、そういう性格の名著です。
核心——分けない知、即非の論理
大拙が繰り返し説くのは、西洋的な知と東洋的な知の根本的な違いです。西洋の知は、主観と客観、自分と対象を分けて捉え、対象を分析することで理解しようとします。これに対し東洋的な見方は、その分別が働き出す手前で、物事をまるごと、分けずに受け取ろうとする——大拙はこれを禅の経験に即して語ります。「知る」より前に「そのものになる」ような、そういう知のあり方です。
この見方を大拙は独特の言い回しで表現します。「即非の論理」——「AはAでない、ゆえにAである」という、一見矛盾した言い方で、分別を超えた次元を指し示す論法です。理屈で割り切ろうとするとつまずきますが、入門書で無我や空の発想を掴んだあとなら、「分けて捉える手前に立ち返る」というこの姿勢が、東洋思想の底に流れる一本の筋として腑に落ちてきます。
東洋的な見方とは、対象を分析して所有する知ではなく、分ける手前で物事とひとつになる知のことである。(本書の趣旨を、編集部が要約したもの)
——『東洋的な見方』の中心的な見取り図(編集部による大意)
読みどころ3点
1. 東洋思想の「底」に流れる筋が見える
仏教・禅・老荘など個別に学んできた発想が、「分けない知」という一本の筋でつながって見えてきます。入門で得た地図に、初めて奥行きが加わる瞬間です。
2. 平明な言葉で深いところへ連れていく
晩年の大拙の文章は、専門用語を振りかざさず、身近な例から核心へ降りていきます。難解な原典に挑む前に、「思想家自身の肉声」に平明な形で触れられるのは貴重です。
3. 上田閑照の編集が入口を最適化している
膨大な大拙の著作から、初学者向けに射程の広い文章を選び抜いた編者の仕事のおかげで、どこから読んでも核心にたどり着けます。1冊で大拙の見方の全体像に触れられます。
留意点と読み方
文章は平明ですが、扱う内容は一読で割り切れる種類のものではありません。「即非の論理」のように、理屈で詰めようとするほど逃げていく議論もあり、入門書の明快さに慣れた目には、最初つかみどころがなく感じられるかもしれません。おすすめの読み方は、分からない箇所で立ち止まりすぎず、まず全体の空気を通読し、心に残った一篇を折にふれ読み返すこと。理屈で制圧しようとせず、味わうように読むほうが、この種の思想はよく入ってきます。「もっと日々の実践に引きつけて考えたい」と感じたら、次に紹介する『ぶれない軸をつくる東洋思想の力』が、地に足のついた橋渡しになります。
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