『観光客の哲学 増補版』書評——誤配の政治哲学、主著はここから
★★★★★4.7 / 5.0(編集室評価)
結論: 東浩紀の主著です。世界は国家の層(ナショナリズム)とグローバル経済の層に引き裂かれ、真面目な「市民」にも「世界市民」にも希望が持てない——その隙間で本書は、ふまじめに国境を越える「観光客」にこそ新しい連帯の可能性があると論じます。毎日出版文化賞を受けた2017年版に2章を書き足した増補版が、いま読むべき決定版です。
どんな本か——3行で
2017年、自ら立ち上げた出版社ゲンロンから刊行された政治哲学の書です(原題『ゲンロン0 観光客の哲学』)。ヴォルテールからシュミット、ネグリまでの思想史を貫きながら、「観光客」という誰も哲学の主役にしなかった存在を、分断の時代の連帯の担い手として理論化しました。毎日出版文化賞受賞。2023年の増補版で家族と訂正可能性をめぐる新章が加わりました。
核心——観光客と誤配
観光客とは、その土地に責任を持たず、真剣な当事者にならないまま、それでも行かなければ出会わなかった人と物に出会ってしまう存在です。本書はこの「ふまじめさ」を軽蔑せず、むしろそこに賭けます。鍵になるのが誤配——意図しなかった相手にメッセージが届いてしまうこと。村人(国家の層)にも旅人(グローバルの層)にも閉じない観光客の移動が誤配を生み、誤配が憐れみと連帯を生む。『弱いつながり』で「新しい検索ワード」と呼ばれていたものが、ここで政治哲学の概念に鍛え直されるのを見るのは、順番に読んできた読者だけの愉しみです。
読みどころ3点
1. 二層構造の時代診断
政治(国家)と経済(グローバリズム)が別の原理で世界を二重に覆っている——前半のこの見取り図だけで、ニュースの分断語りが一段深く見えるようになります。
2. 「郵便的マルチチュード」への転回
ネグリらの「マルチチュード」論の袋小路を、デリダ由来の誤配概念で組み替える中盤は、本書の理論的クライマックスです。デビュー作以来の「郵便」のモチーフが、二十年越しに政治哲学として回収されます。
3. 家族・観光・憐れみ(後半〜増補)
後半は連帯の単位としての「家族」の再検討へ進み、増補版の新章が『訂正可能性の哲学』への橋を架けます。増補版で読む最大の理由がここです。
注意点と版の選び方
二点。第一に、本格的な思想書です——といっても文体は驚くほど読みやすく、難所は密度ではなく思想史の固有名詞です。シュミットもコジェーヴも本書内で説明されるので、STEP 1・2(訂正する力・動ポモ)を経ていれば止まりません。第二に、版の選び方:リンクしているのは2023年の増補版です。中古で出回る2017年版(ゲンロン0)は新章2章分が含まれないので、これから買うなら増補版一択です。
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